勝負

 突然のレオンの登場に場はざわつく。

 ジェインに集まっていた注目は一気にレオンへと移っていった。今のところレオンの本性はほとんどの人には知られていないこともあって、会場はこれからどうなるのかと緊迫感に包まれた。


「確かに法的にはそうなっているかもしれない。しかしこちらとしては事前の了承もなく婚約者を勝手に変更された。そのようなことを断じて許す訳にはいかない!」

「それは婚約の変更を通知された時におぬしの家がすぐに抗議しなかったからだろう」


 ノーガンは宰相らしく法的な手続きについて述べる。おそらく、婚約変更の際に父上からオーランド公爵家に話が行っているはず。それをレオンがオーランド公爵から聞いていなかったのか、聞いていて無視したのかは知らないが、変更を阻止するのであればその時に抗議すれば良かったことである。


「そんな些末な手続きはどうでもいい。レオン・オーランドはジェイン・アーノルドにエレナを掛けて決闘を申し込む!」


 そう言ってレオンは手袋をジェインに向かってたたきつける。

 本来は法的手続きは些末でも何でもないが、それを見て参列客たちは再びどよめく。


 確かに手続き上はジェインが有利であるが、もしここで決闘を断ればどうしても「逃げた」という印象がついてしまう。だから何だということではないのだが、貴族というのは評判や体面を気にするものだ。たくさんの貴族が集まっていることを逆手にとってレオンの作戦は強引ではあったが、だからこそ回避しづらいものだった。


 しかもレオンは文武両道な人物として名高い。決闘になれば絶対に勝つという自信があるのだろう。


「レオン様、そのようなことはおやめください!」


 私はレオンに向かって叫ぶ。

 が、彼は冷たい目で私を見た。


「これは男と男の戦いだ。お前は黙って見ていてくれればそれでいい」


 その言葉にはいつもの、有無を言わせぬという響きがある。


「いいだろう」


 するとジェインが私の前に進み出た。

 彼は諦めたような溜め息をつく。


「ジェイン様!?」

「どうせこんなことになると思ってはいたんだ。だから僕もそれ相応の準備はしてきた」

「ほう、思いのほか潔いのだな」


 レオンは少し驚いたように言う。

 が、ジェインは動じずに答える。


「これから一生この件でつきまとわれても困るからな。ここでお前を倒して決着をつけさせてもらおう」

「応じるということは決闘結果を受け入れるということだな? せいぜい負けてから泣き言を言わないことだ」

「では庭へ出ようではないか」


 それから期せずしてパーティーは中庭へと会場を移した。 レオンとジェインの二人は上着を脱いで木刀を構え、それを囲むように参列者やアーノルド家の人々、そして私とノーガンが見守る。


「では今回の決闘、私が見届けさせていただく。二人とも準備は良いな?」

「「はい」」


 レオンとジェインが同時に答える。

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