父上との会話
「お話があります」
家に帰った私は父上の部屋に行き、そう切り出す。逆らえないと思っていたレオンに立ち向かった私にとって、もはや父上は怖い存在ではなかった。
私からそんな自信が感じ取れたからであろう、父上は少し驚いた顔をする。
「珍しいな、エーファがそんなことを言うなんて」
「はい、今回の婚約についてです」
私がそれを言うと父上は露骨に嫌そうな顔をする。あれほど母上と揉めていたのだから当然だろう。
「まあ聞こう」
私は父上の部屋に入ると、彼の隣に座り話し始める。
「今回の婚約、経緯はどうであれ父上の手によって私の婚約者はジェイン様に、アーシャの婚約者はレオン様に変わりました。父上はこのこと、本人にしか知らせてないのですよね?」
「ああ、そうだな。だがだからといって軽々しく取り消すことは出来ない」
今更軽々しく取り消せない、などとどの口が言うのかと思いましたがそれは置いておく。
「はい。ですが、きちんと王宮にも報告して承認を得ていただかないと私も立場が宙に浮いたままで困るのです」
「なるほど、王宮か」
面倒だな、と思ったのか父上の目が泳ぐ。普通はそんな重大事であれば王宮にも届け出るのが筋だと思うが。
とはいえそんな不満を懸命に堪えて説得を行う。
「はい。王宮に届け出ればさすがのアーシャもそれ以上文句を言うことはないでしょう。そうすれば父上もこれ以上色々言われることもなくなるでしょう」
「なるほど」
しかし父上は自分で決めたことなのにまだ煮え切らぬ様子だった。大方、王宮に報告する際に周囲に引かれるのが嫌なのだろう。とはいえそこは自分で決めたことである以上頑張ってもらわなければならない。
「それにエドワード家のジェイン様は若いのにとても聡明な方で、エドワード家自体も最近力を増しています。エドワード家との政略結婚自体は我が家にとってもいい結果を生むでしょう」
私が言ったときだった。
突然ドアが開いて母上がやってくる。そして眉を釣り上げて激怒した。
「ちょっとエーファ! あなたは可愛い妹をあのモラハラ男に嫁がせようって言うの!? あの男、アーシャのことを自分のアクセサリーとしか思ってないのよ!?」
それならお前はそんな男に私を嫁がせようと言うのか、という言葉がのどまで出かかる。
苛ついたがもはや母上は放って父上だけを説得する方が早いだろう。
「ジェーン様がいい方だと言うならそれこそアーシャに譲ってあげたらどうなの?」
「婚約相手というのは物ではないので簡単にあげたりもらったり出来ません。それにジェーン様はすでに我が家のやり方に強い不信感を抱いていますし、アーシャはジェーン様に数々の失礼な発言をしています。もしもう一度私とアーシャを入れ替えるようなことをすれば、今度は向こうから婚約破棄されて我が家はさらに恥をかくことになりますよ」
「さらに恥……それは困る」
それを聞いて父上は蒼い顔になった。
「あなた! アーシャのことよりも自分の体面の方が大事な訳?」
なおも食い下がる母上。
が、そんな彼女に父上は言い放った。
「そうだ! わしはもうあいつの我がままのせいで恥をかくのはまっぴらだ! これまで散々アーシャの我がままを聞いてきたというのに、結局恥をかいて終わっただけじゃないか! あの馬鹿娘め! もういい、王宮に正式に報告する! アーシャはレオン殿に、エーファはジェーン殿に嫁ぐのだ!」
普段滅多に感情を露にしない父上がそんなことを叫んだので私は驚き、母上は呆然としていた。
結局最後までそれなのか、と思ったが何にせよ父上が王宮に報告してくれるのであれば私としては不満はない。
「この人でなし!」
それを聞いた母上は怒って部屋を出ていったがもはや私にとってはどうでもいいことだった。
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