計画

「ありがとうございます、ジェイン殿」


 レオンが去っていくと、私はジェインにお礼を言う。さっきは気力を振り絞って言い返したものの、すっかり全身から力が抜けてしまっていた。

 ジェインの方も堂々としていたものの緊張はしていたようで、レオンが去っていくとほっとした表情になる。


「まあ、他人の家の前で暴れられても困るからね。しかし前はまともな男だと思っていたが、君の話に聞いていた以上にやばい男だったな」

「そうなんです。私だけでなく、家でも家臣や使用人に対してあのような態度をとっているのですが、普段はそれを隠しているんです」


 基本的にレオンは自分と同格かそれ以上だと思っている相手の前では紳士的な男の皮を被っている。逆に言えば私のことは見下しているということだろう。


「とはいえあの男相手によく頑張ったな。怖かっただろう?」

「はい」


 ジェインの言葉に私はつい本音を漏らしてしまう。

 もしジェインが来てくれなければあそこまで果敢に立ち向かうことは出来なかっただろう。


「本当に、ジェイン殿が来てくれなければまた今までのようにレオンに屈してしまっていたかもしれませんでした」

「ありがとう。僕のためにあそこまで頑張ってくれて嬉しかった。とりあえず、立ち話も何だし家に入ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 こうして私はジェインに招かれて屋敷に入るのだった。



 そこでジェインがメイドに頼んで紅茶とケーキを出してくれた。紅茶の少し甘い香りが漂ってきて、ようやく私は少し落ち着く。


「しかしこの騒動は下手するとこじれるな」

「はい。そもそもこの婚約の入れ替えは公式に有効なのでしょうか?」

「どうだろうな。悪いが、君の父上のことだから僕たち関係者だけに伝えてそれで終わりになっているんじゃないか?」

「そんな気がします」


 もはや私は父上のことを全く信用していなかった。


「だからさっさとこのことは発表してしまった方がいいだろう。とりあえず僕は改めて婚約を発表するパーティーを開こうと思う。だから君は父上に言って新しい婚約を王宮に正式に報告してもらってくれないか?」

「分かりました」


 確かに新しい婚約が周囲に認められれば、外面がいいレオンはちょっかいを掛けてくることはなくなるだろう。

 そう思って頷くものの、あの父上と話すとなると話が通じるのか不安になってしまう。

 そんな私の不安そうな表情を見てジェインは優しく声をかけてくれる。


「大丈夫だ。確かにレオンの実家であるオーランド公爵家は力を持っているが、僕の家も同じ公爵だし、財力なら負けていない。レオンがちょっかいをかけても必ずこの婚約を成立させてみせよう」

「ありがとうございます」


 やはりジェインはどこまでも優しかった。

 絶対に私は彼と結ばれたい。


 改めて私はそんな決意を固めるのだった。

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