ジェインの言葉
「じ、ジェイン殿!?」
私は突然現れたジェインの姿に驚いたが、よく考えればここはジェインの家の前だから突然現れるのも当然だった。
が、レオンはそんなジェインに対して敵意の籠った視線を向ける。
「お前がエーファの新しい婚約者を名乗っている男か?」
「ジェイン・エドワードだ。名乗っているも何も僕は婚約の申し出を受けただけだ。君の方こそ他人の家の前で他人の婚約者に乱暴するのはやめてもらいたいね」
ジェインはレオンの刺すような視線にも負けずに彼を睨み返す。これまでほとんどの人物はレオンが睨みつけるとすくみ上がってしまっていたので、ジェインの勇気に私は驚いた。
「そうか。エドワード家の子息はこの無茶な婚約者入れ替え劇が成立すると思ってるんだな? 常識で考えてくれ。姉妹の間で婚約者を取り換えるなんてことがまかり通るはずがないだろう?」
レオンは言葉こそ穏やかではあるものの、その語気からは反論を許さないという意志がうかがえた。しかも彼の言っていることは今回に限って言えば正論である。
が、ジェインは負けじと言い返す。
「確かにそれはそうかもしれない。だが、元はと言えば何でこんなことになったと思う?」
「何が言いたい?」
ジェインが思わぬ方向から反論したためか、レオンは虚を突かれる。
「君が婚約者としてエーファの家の問題をきちんと把握していれば防げた問題だろう? 言っては悪いが、あの家が少々異常なのは少し話を聞けば分かることだ。それすら把握していなかった者にエーファの婚約者は荷が重いんじゃないか?」
「何だと?」
珍しく議論で言い負かされそうになったレオンは悔しそうに唇を噛む。
が、やがて彼は突然こちらを睨みつける。そして突然怒鳴りつけた。
「おい、何でそんな大事なことを僕に隠していた! お前のせいで僕が恥をかいただろうが!」
レオンの大声に私の体は恐怖でびくりと震えあがる。
しかし今は隣にジェインがいる。ジェインが私のためにここまで言ってくれているのに、私自身がこれまでのようにレオンに脅えたままでいることは出来ない。
私は勇気を出して彼の前に立つと、声を振り絞る。
「……そうやって今までいつもいつも怒鳴りつけて私を黙らせてきた癖に、今更婚約者面しないで!」
「何だと?」
これまで全く言い返さなかった私の言葉にレオンは驚いたが、すぐに顔を真っ赤にして眉を釣り上げる。
「お前は黙って僕の言うことを聞いていればいいんだ! 女の癖にこの僕に歯向かいやがって! そんなにこの醜い男がいいか!?」
レオンが怒鳴った時だった。
「そこまでです! これ以上我が家の門前で暴言を吐くのはやめていただきたい!」
「ジェイン様へのそれ以上の罵詈雑言、おやめください!」
気が付くと、いつの間に私たちの周囲をエドワード家の執事や警備兵がぐるりと取り囲んでいた。さすがのレオンもそれを見て形勢が悪いと悟ったようで、黙り込む。
それを見てジェインが言った。
「お前の今のエーファに対する暴言は全部聞いた。今この場にいる彼らも皆証人になってくれるだろう。もしあくまで彼女との婚約を戻そうと言うなら僕は今の暴言を証言してそれを阻止しようと思う」
「くそ! 別の男に気に入られたからといって怖気づきやがって!」
最後にレオンはそんな捨て台詞を吐くと逃げるように馬車に乗って去っていった。
私は彼が去っていくと、それまでどうにか支えていた両足から力が抜けてその場に座り込んでしまうのだった。
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