レオン襲来
そんなことがあった数日後である。
私が再びジェインに会うため、馬車に揺られていた。そして間もなく彼の屋敷が見えて来て馬車を停めようとした時である。
不意に門の前にもう一台の馬車が現れた。忘れもしない、レオン愛用のオーランド公爵の家紋が入った馬車だ。
「嘘、彼が何でここに」
それを見て私の表情は随分青ざめていく。
せっかくレオンから解放されたと思ったのに。レオンに怒られた時の記憶が自然と私の中によみがえってくる。
「お嬢様、どうしましょう」
御者が恐る恐るこちらをうかがう。私はどうしたらいいか分からず、返事が遅れてしまう。
そこへ向こうの馬車からレオンが降りてこちらに歩いて来る。彼はいつも外で振りまいているような完璧な愛想笑いを浮かべている。
相変わらず外面だけは良かった。
「やあエーファ。久しぶりだね」
声をかけられてしまった以上私も応じなければならない。
仕方なく私は馬車を下りて彼の元に向かう。
「久しぶりです、レオン殿。でも婚約者はアーシャに替わったはずでは?」
「それなんだけどエーファ、話を聞いたけどあれはどう見てもアーシャの我がままだ。僕はあんな我がままで君との婚約が破棄されるなんて承知出来ないよ。聡明な君なら分かるだろう?」
困ったことにレオンの言っていることは全て正論だったので反論出来なかった。恐らく私がジェインと会う前に同じ台詞を聞いていればすぐに同意していただろう。
しかし今の私はすでにジェインと結ばれたいという気持ちが強くなっていた。
「大丈夫、こんなバカげた婚約の変更なんて君と僕が力を合わせればすぐに元に戻せるよ」
言葉だけ聞けば彼は頼りがいのある婚約者だ。
しかし私は彼の本性を知っている。きっとレオンは我がまま放題のアーシャに嫌気が差して従順な私を取り戻そうとしているだけなのだろう。
私はレオンと一緒にいた時のことを思い出して恐怖に包まれる。こうして外面は柔和な笑みを浮かべていても、少しでも気に食わないことをすると彼は豹変するのだ。
だめだ、このままではまたあの日々に戻ってしまう。
私は自分を奮い立たせる。
「どういう経緯があったとしても私はジェイン殿と結ばれたのです。それをそんなに簡単に元に戻すことは出来ません」
「はあ、残念だよ」
私の答えを聞いたレオンはため息をつく。
そして目をかっと見開くと、私をぎろりと睨みつけ、低い声で言う。
「全く、少し目を離すと他の男に目移りするなんて躾がなってないな。来い、もう二度と僕以外の男とは会話もしたいと思わないように教育してやる!」
そう言ってレオンは私の右手を掴もうとする。逃げようとするも女性の私では逃げられない。
「ちょっと待った!」
が、そこに鋭い声とともに駆け寄ってくる人影があった。
彼は素早くレオンと私の間に入る。
私を掴もうとしたレオンの手は人影にぶつかりそうになり、慌てて引っ込められる。
「その話をするなら、当事者である僕も入れてくれないか?」
そう言ったのは私の今の婚約者、ジェインであった。
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