我がままの代償

 レオンの屋敷を追い出されるようにして、アーシャは目に涙を浮かべながら走り出る。

 最初はレオンの言葉に不満を持っていたアーシャだったが、次第にそれはレオンへの怒りに変わっていく。


「ふん、あんな男こちらこそ願い下げだわ! この私の美しさに気づかないなんて! それにどうせ父上と母上なら私が泣きつけばまた言うことを聞いてくれるはず!」


 そう思ったアーシャは泣きながら屋敷に戻ってくる。


「まあどうしたの!? 一体何があったのかしら!?」


 アーシャがドアを開けると同時に母がアーシャの泣き顔を見て駆け寄ってくる。

 それを見てアーシャはほくそ笑んだ。これならすぐにでも母は要求を呑んでくれるだろう。


「レオンに虐められたのです! あの男、外面は良くても中身は最悪ですわ!」

「まあ! それは大変だわ」


 思った通り母はすぐにアーシャに同情してくれた。


「ですからお母様、婚約者を元に戻して欲しいのです!」

「そうは言ってもねえ」


 さすがの母も今度ばかりはいいと言えず、難しい表情になる。

 とはいえこれまでも似たようなことは何度でもあったが、全て強引に泣き落としで我がままを通して来た。だからアーシャはそれを見ても構わずに泣き続けた。


「お願いしますわ! あんなひどい男、もう二度と会いたくありませんの」

「そうねえ。でもあなた、ジェインに嫁ぐのも嫌がっていたでしょう? それじゃあ一体どうするの?」

「う……」


 それを聞いてアーシャは言葉に詰まる。そもそもそこで「じゃあジェインでいいです」と思うぐらいならここまでの我がままを言ったりしない。とはいえこのままレオンの元に嫁ぐのはご免だ。


「一体どうしたんだ?」


 そこへ騒ぎを聞きつけて父親がやってくる。


「実は、アーシャがレオン殿に虐められたって言うの」

「そうは言ってもわしは今回の婚約者入れ替えのために、各方面に相当無理を言ったんだ。しかもそのせいで皆から『無責任』『常識知らず』などと罵られたんだぞ?」


 父は父で、何となくアーシャの我がままを聞いてしまったものの、様々な人に文句を言われたため後悔していた。


「そんな、でも私は虐められているのです」

「そんなことは知らない、それはお前が望んだことだろう。あと、お前が婚約破棄されると無理矢理婚約をとりつけたわしの名に傷がつくからどれだけ虐められても婚約破棄だけはされるなよ」


 父の自分本位な物言いに母が噛みつく。


「あなた、そんな言い方は酷いわ! アーシャは苦しんでいるの!」

「知らない、じゃあわしが苦しんでいるのはどうでもいいって言うのか!?」

「アーシャが苦しんでいるのに自分のことばかり! もう知らない!」


 こうしていつの間にかアーシャのことはそっちのけで両親の間で言い争いが始まる。こうしてアーシャとレオンの婚約はそのままになったままだった。

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