縁談Ⅲ
「別に私はアーシャに縁談を譲られた訳ではないし、何にせよ私とレオン様はもう婚約してしまったし、こっちの事情で一方的に婚約破棄することは出来ない」
何で私がこんなことを言わなければならないのか、と思いつつ言った。
が、私の言葉になぜかアーシャは急に眼に涙をにじませて言う。
「酷いわ……私は王族と婚約出来るって聞いたからレオン様との婚約を譲って我慢していたのに、その結果が醜男との婚約だなんて。それに婚約破棄なんて大事じゃなくてただ私に代わるだけじゃない」
「そうよアーシャ、あなたは姉でしょう? 婚約を譲ってあげなさい」
母上はアーシャの泣き落としにあっさり同調する。
譲ってあげなさい、て欲しいおもちゃとかじゃあるまいし。
「逆に聞くけど、私が譲ると言ったら婚約はあっさり譲れるものなの?」
「そりゃそうでしょう。レオン様だってあなたよりもアーシャと婚約したいに決まっているわ」
母上が当然のように言うので、一瞬私は自分がおかしいのではないかと錯覚してしまったほどだった。
とはいえ、私は冷静に考える。今まで婚約というのはそんなに簡単に破棄出来るものではない、と聞いていたので反論してしまっていたが、両親さえいいのであれば私はレオンとの婚約がなくなること自体は全く構わない。というかレオンと離れられるならむしろ願ってもないチャンスだ。
大体、父上も母上も妹も皆常識外れのことを言っているのに、なぜ私だけが常識に縛られないといけないのか。そう思うと急に何もかもがばかばかしくなってきた。そろそろ私だって自分の希望を通してもいいはずだ。
「分かりました父上。では私がレオン様との婚約を解消することに同意すれば全て丸く収まるということですね」
「そういうことだ。さすがエーファは物分かりがいいな」
「ありがとうございますわ、姉上」
「エーファは優しいのね」
家のために良かれと思っていったことは否定され、自分本位の発言はなぜか褒められる。頭がおかしくなりそうだったが、何にせよレオンとの婚約がなくなるのであれば願ってもないことだ。
エドワード公爵家のジェインは醜男とは聞くが、今のところそれ以外に悪い評判は聞かない。それにモラハラ男というのは自分に自信がある男が多いと聞く。醜男であれば逆に安全なのではないか、とすら今の私は思っていた。
「じゃあそれならレオン殿の婚約者はアーシャに変更し、エーファはジェイン殿に嫁ぐということでよろしいな?」
父上の言葉に皆が頷く。こうしてこの話は一軒落着したかに思えた。
が。
「じゃあ、そのことはエーファからレオン殿に伝えておいてくれ」
「は?」
さらっと言った父上の言葉に私は耳を疑う。
「縁談について決定権があるのは父上ですよね? でしたら父上の口から伝えるのが筋ですよね?」
「そうだろうか? やはりそういうのはエーファの口から伝えるのが一番無難だと思うんだが」
「一ミリも無難ではありませんし、私からは絶対に言いませんので!」
そう言って私は立ち上がるとその場を去る。それではまるで私から婚約破棄を言い出したみたいではないか。少し油断するとするとすぐこれだ。
が、幸いアーシャにとって私と父上のどちらがレオンに婚約者の変更を伝えるかはどうでもいいことだったようで、何も言ってこなかった。さすがに私の口からレオンに婚約破棄を切り出すのは死んでもごめんだ。
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