縁談Ⅱ
「ついに我が家にも縁談が来たぞ!」
一年と少し前のことである。ちょうど今のようにテーブルを囲んでいる私たちに、父上が興奮した口調で告げた。縁談となればおそらく長女である私が行くことになるだろう、と思い私は尋ねる。
「どこの家でしょうか?」
「オーランド公爵家だ」
「何ですって!?」
その名前を聞いて叫び声を上げたのはアーシャだった。すでにレオンは評判がよく、国中の貴族令嬢が彼との結婚を夢見ていたが、それはアーシャも同じだったらしい。
「お父様、是非私にお任せください!」
アーシャは身を乗り出して言うが、父上は難しそうな顔をする。
「だが、我が家の長女はエーファだ。だから今回はエーファに行かせることになるだろう」
「そんなの許せません! お姉様よりも私の美しいです! レオン様と釣り合うのは私に決まっていますわ!」
アーシャはそうまくしたてる。だが、アーシャが許しても許さなくても長女である私から婚約が決まっていくのが普通のことだ。それにどちらが美しいとかは縁談にはあまり関係はない。
そんなアーシャに父上はなだめるように言う。
「その気持ちは分かる。だが今回ばかりはそういうものと思って諦めてくれ。それに、アーシャはまだ未来がある。きっとアーシャの元にはもっといい縁談がくるだろう」
「本当ですか!?」
もっといい縁談、という言葉にアーシャは目を輝かせる。
「確かに私ほどの美しさであれば王家からの縁談が来てもおかしくありませんわ」
「あ、ああ。そうだな」
父上もアーシャの言葉に頷く。もちろん公爵家であれば王家からの縁談がある可能性もゼロではないが、現在の王家には年が近い王子はいなかった気がする。
おそらく父上はなだめるためにそれっぽいことを言っただけなのだろうが、アーシャはすっかり本気にしてしまっているようだ。
「あの、そんなこと言ってしまって大丈夫ですか」
不安に思った私はこっそり父上に耳打ちする。
すると父上はこともなげに言った。
「だが、そうでも言わなければアーシャは収まらないだろう。長女ではなく次女のアーシャが王子と結婚するのは妬ましいかもしれないが、我慢してくれ」
「……」
別にそういう心配をしている訳ではないのだが、話が通じないようであった。そもそも年が近い王子はいないし、いたとしてもその結婚相手がアーシャになることはないし、もしなったとしたら恐らく我が家は恥を晒すことになる。
一方のアーシャは「王子」という言葉にすっかり興奮してしまっている。そして私に上機嫌で言った。
「そういうことでしたらこの度の婚約、お姉様に譲りますわ」
「……」
もはやこいつらには何を言っても話は通じないだろう、と思った私は沈黙した。
オーランド家の跡取りで聡明と名高いレオンなら私の悩みを聞いてくれるかもしれない、と思った私だったがその期待も早々に裏切られることになるのである。
……というのがレオンとの縁談が来たときの顛末であり、確かにアーシャは勝手に「譲ってあげますわ」と言っていたが、あくまで彼女がそう言っているだけで本当に譲られた訳ではない。
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