レオンⅡ
それからその帰り道のことである。喫茶店での出来事が尾を引いて私はずっと無言、雰囲気は最悪だったがレオンは気にせず当初決めていたデートルートを粛々と消化していく。
やはり彼にとって私は彼のステータスの一部であり、私の内心など彼にとってどうでもいいのだろう。きっと予め定められた「レオンに相応しいデートコース」を消化することが目的に違いない。
レオンのことを考えていると気が滅入ってしまうため、仕方なく私は街の景色を見ながら歩く。街の喧噪を見ていると、落ち込んでいた心は少しだけ安らぎを取り戻していく。
が、その時だった。
「おいエーファ」
不意にレオンが鋭い声を発する。その時のレオンは先ほどの喫茶店の時のように豹変しており、周囲の空気は凍り付いていた。もしや私は気づかぬうちに何か彼の気に障ることをしていただろうか。
「な、何でしょう」
「何でしょうじゃない。今君は何を見ていた?」
「え、街の景色を」
私は正直に答えるが、レオンは険しい表情のままだ。
「それだけじゃないだろう? 君は今僕以外の男を見ていた」
「そんなことはありません!」
が、私が否定したのが気に入らなかったのか、レオンは声を荒げる。
「嘘をつくな! じゃあ今僕が何を見ていたか分かるか?」
「わ、分かりません」
「何で分からなかったのか教えてやろう。きっと街にいる別の男のことを見ていたからだ」
「……」
べつに男のことを考えていた訳ではなかったが、レオンのことを考えていなかったのは確かなので反論しづらい。
「ごめんなさい」
雰囲気に堪えられなかった私が謝ると、彼はふっと表情を緩ませる。
そして急に優しい声色に変わって言う。
「分かってくれればいいんだ。僕はただ自分の婚約者が気持ちの上だけでも不倫をしているのが我慢ならなくてつい怒ってしまったが、君は聡明だから理解してくれると信じていたよ」
「……」
彼の言葉に私は早くも心底うんざりした。
レオンが意図してやっているのかは分からないが、いきなり声を荒げたり、その直後に優しくしたりするのはDV男が相手を自分に逆らえなくするときに使う手口ではないか。
相手が怒るのが面倒くさくなって謝っているうちに、気持ちまで彼に従うようになってしまう。そういう手口だ。
その後もレオンのそういう言動は続いた。しかも彼は着々と私を服従させられていると思っているのか、暴言と褒め言葉の落差はどんどん激しくなっていく。
ちなみにアーシャにネックレスを上げたときも「僕があげたネックレスを他人に渡すとは何事だ」と大層怒られた。まあこれは正論だけど。
さらに彼は自分の使用人たちにも同じような、いや、私より遥かに厳しく接しているということを知り、さらに私は彼が嫌になった。
それでも能力自体は優れているため周囲はずっと彼を褒め称え、私に「あのレオン様の婚約者なんてうらやましい」と言ってくる者は後を絶たなかった。そのたびに私は苦笑するしかなかったのである。
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