第16話

朝起きて、テレビをつけると。どこもかしこも昨日フリアージが現れた場所の映像が流れて。同じようなことを言っていた。フリアージが現れたと。

 あと、新しいヒーローが現れたとも取り上げてる。世界教会からの発表はなく、とかいろいろ言ってるが。そりゃあ、そうだろうよ。世界教会に見つからないために逃げたからな。


「おはようございます」

「おはよう」


 起きてきたジャンヌが、テレビを見て足を止めた。


「わー、地面ボロボロですね。枝垂さんのせいで」

「最初はジャンヌもやっただろう」


 テレビに映る、地面はタイルがはがれてボロボロになってるところが多い。幸いにも、建物には被害がないから修繕に時間がかからないらしい。


「でもほとんど枝垂さんじゃないですか」

「まあな」


 とはいえ、人守るためには仕方ないんだ。


「今日も仕事ですか」

「仕事というか、社長が来なきゃ仕事にならないからな。昼には帰ってくるから、弁当はいらない」

「わかりました。お昼ご飯のリクエストとかあります?」

「いや、ジャンヌが食べたいの作ってくれ」

「了解です」


 朝飯を食って会社に行く途中、浅野から電話がかかって来た。


「なんだ」

「先輩俺今日休むことになっちゃって」

「そうか」


 電話を切った。

 なんてことない電話だったか。まあ、今日も社長は来ないだろうから問題はない。会社にいるだけで休みみたいなものだからな。


 昔、浅野に「なんで来ないってわかるんすか」ってきかれたことがあったが。今まで次の仕事が来るまでに最低でも二日は社長が来たことがない。


 っていうことを話した。これは今までも変わらない。だから今日も社長は来ないはずだ。

 スマホをしまってまた歩こうとしたら、電話がかかって来た。また浅野から。


「今度は何だ」

「なんだじゃなくて、理由も聞かないで電話切らないでくださいよ」

「別に聞く必要ないだろ、休みなんだから」

「いやそうっすけど。どうしたんだ、とか思ってほしかったっす。可愛い可愛い後輩のことを少しは心配してほしいっすよ」

「つまりは、お前が理由を話したいから聞けってことか」

「いやただ心配してほしかっただけなんすっけどね。理由、話していいっすか」

「聞いてやるから早くしろ、まだこっちは会社についてないんだ」

「社長は知ってるんすっけど、実は俺ヒーローなんすよ」

「そうか、病院行くのか。いい結果が出るといいな」

「俺の体は正常っす!」

「なんだ、頭がおかしくなったんじゃないのか」


 誰だって急にヒーローなんだと言われたら、相手の頭の心配をするだろう。


「違います。ほんとにヒーローなんすよ。ほら、昨日の空間震で対応したのも俺っすし」

「まて、お前あのアーサーなのか」

「そうっすよ、すごいでしょう」


 まさかこいつが本当にあのアーサーだっていうのか。いや、聞いてみればわかるか。こいつが本当にアーサーなら、昨日のことを聞けばいい。


「じゃあお前、新しいヒーロー見たのか」

「見たっていうか、なんていうか。そのこともあって今日いけないんすけどね。確かにあれはヒーローだったっす」

「そうか、わかった。でもなんで俺に話した」


 そう、別に俺に話す必要はなかった。社長が知ってるならそれでいいだろうし。わざわざ電話で休むって伝えなくてもよかっただろうし。何がしたいんだこいつ。


 ヒーローの正体は秘密になってる事がほとんどだ、面倒ごとを避けるためにもな。なのに俺に話すとか、こいつ馬鹿なんじゃないだろうな。


 だいぶ馬鹿っぽい所はあったが、馬鹿にプログラミングはできないからふざけてるだけだと思ってたが。


「昨日、仲良くなりたいって言ったじゃないっすか俺。これから先輩と仲よくしようってのに嘘ついてるのも嫌だったんで。休みの電話ついでに言おうかなって」

「お前な、俺が誰かに話すとか思わなかったのか」

「え、先輩はそんなことしないじゃないっすか」


 こいつ、この。なんだってこんなに無条件に俺のことを信頼できるんだ。人を疑うってことをしないのかこいつは。


「どうしたんすか先輩黙っちゃって」

「お前が底なしのお人よしの馬鹿なことに呆れてるんだよ」

「なんか褒められてる気がしないっす」

「褒めてないからな、どちらかというと貶してる」

「ひどいっすよ先輩」


 だが、昨日のアーサーがこいつなら。ここまでお人好しなのもわかるか。二回も殺しかけたっていうのに、話しかけて。二回しかあったことのない人を、救おうとまでする。

 どこまでも優しく、人を信じようとする。誰もが憧れるヒーローっていう存在を体現しているんだ。


「それで、話はこれで終わりか」

「あっはい、そうっすね。もしかしたら明日も休むかもっすけど」

「その時はまた明日電話しろ」

「わかりました。それじゃあ失礼するっす」


 最後までふざけたやつだったな。でもこのふざけたやつがヒーローなんだよな。

 アーサーの時の浅野だだいぶ真面目に見えた。どっちが素なのかわからないが、まあ真面目な一面もあるなら安心できるか。何に対する安心なのかは自分で思ってもわからないが。


 会社に着けば、社長は来ていなかった。つまり、昨日と同じくほとんど休みというわけだ。

 他の社員が、寝たりゲームしたりしているなか。俺はネットニュースを見ていた。

 もちろん見ている記事は昨日の空間震に関するものばかり。


 連続して発生したのは、何十年ぶりだという記事や。新しいヒーローは一体どんなヒーローなのかという記事。三人目のヒーローが居たなんて言う記事もあるな。

 ただ、どの記事も推測されるだとか、曖昧な表現が多い。世界教会が公式発表をしてないからだな。


 空間震の後は必ず、世界教会が規模なんかを公式発表しているが。三日前、そして昨日の空間震に関しては公式発表してない。


 現在調査中っていうのが今のところ世界教会は発表している唯一のことだ。原因は、俺とジャンヌなんだろうがな。

 血眼になって探してるんだろうよ、少なからず、浅野が今日呼ばれたのもそれ関連だって言っていたしな。

 少なからず、聖遺物は世界教会に保管されてたんだろう。


「聖遺物が向かっている」って聖遺物が俺の目の前に来た時にアーサーが言っていたからな。

 だから、あれがジャンヌダルクの使っていた聖遺物だって知っているはずだ。そして、浅野は家に来た時にジャンヌの名前を知っている。


 もしかしたら、今頃家に来てるかもしれないが。ジャンヌから連絡がないんだ、来てはいないんだろうな。

 見れるだけのニュース記事に目を通していると、いつの間にか昼になっていたらしい。社長からの電話が来てた。


「明日から仕事らしいが、今日は帰っていいそうだ。解散」


 いつものパターンだな。あとは納期が近いか余裕があるかだが明日のお楽しみか。

 帰り道には何もなく、家についても何もなく。

 と、平和に家に帰れるはずだったのに。そうはならなかった。

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