第9話

 店の外で待ってると、ジャンヌが出てきた。


「おまたせしました。なにしてるんですか」

「ゲームだ」


 横からジャンヌが画面をのぞき込んで。はっという顔をした。


「これ昨日居た人」

「アーサーな」

「へー、ゲームになってるんですね。私はいないんですか」

「ジャンヌはいない」

「そんな、私だってヒーローというか聖遺物ですよ」

「外であんまり大きい声を出すな」

「そうでした。でも私居ないんですか」

「そもそもヒーローとしていない限り、ゲームにも出てこないんだよ」

「そんなー、ちょっと楽しみにしてたのに」

「ヒーローになれば出れるんだ。そんなに出たいなら、ヒーローになれ」

「それとこれは話が別です」

「そうか、じゃあ服買いに行くぞ」

「はい、ショッピングモール楽しみです」


 浮かれてるジャンヌと電車に乗って向かうのは。この辺りじゃ一番大きいショッピングモール。マルイチって呼ばれてる場所だ。


「沢山、物がありますね」

「ショッピングモールだからな。とりあえずこの店で服見てろ。ちょっと行くところがある」

「わかりました」

「この店から出るなよ」

「わかってますよ、子供じゃないんですから」


 聖遺物に子供も大人も関係なさそうだが。ひとまず、ジャンヌを置いて用事を済ませに行った。


「そんなに時間は立ってないはずだが」


 用事を済ませてジャンヌがいるはずの服屋に行ったら、普通にジャンヌがいた。まあ、面倒ごとが起きてないならそれでいい。


「欲しい服はあったか」

「あっ、枝垂さん。それがどの服がいいかわからなくて」

「まあそうか。店員のお任せで選んでもらえ」

「わかりました」


 近くの店員の所まで小走りで行って、そのまま店員に何着か選んでもらった。


「とりあえず、これでしばらくは来なくていいな」


 ジャンヌの手には大きな袋いっぱいの服があった。

 一応電車に普通に乗れたり、それなりの一般常識はあるんだよな。なんでなのかわからないが。


「帰りますか?」

「ここまで来たんだ、ついでに昼飯を買っていこう」

「出来物買うつもりですね」

「ダメか?」

「材料買って作りましょうよ。料理道具とかちゃんとあるんですから」

「作るのが面倒なんだよ」

「私も手伝いますから、ね?」


 ジャンヌの言い方、仕草。それから服。由衣が俺に手料理をねだってきたの思い出させる。休みの日くらいは俺の手料理が食べたいと、材料を買いにつれてこられて……


「わかったよ、ちゃんと手伝えよ」

「もちろんです」


 作るものを決めずに、適当に食材を買って家に帰った。


「適当に作ってれば、ちょうど昼になるだろ」

「えっ、作るの決めて食材買ったんじゃ無いんですか」

「突然なんだから決めてるわけないだろ」

「じゃあどうするんですか」

「だから適当に作るんだよ。とりあえず切るぞ」


 ジャンヌと一緒に、買ってきた野菜を一口大に切って鶏肉も切る。

 そんで、鶏肉を鍋に入れて焼いたら。買ってきた鶏がらを入れて。野菜と一緒に煮込む。


「鍋の完成」

「凄く適当でしたね」

「味見するか?」

「します」


 小皿に少し汁を取って、ジャンヌに渡した。


「美味しい」

「変なことしなきゃ、料理は適当に作っても旨いんだよ」

「早速食べましょう!」

「座ってろ、よそってやるから」


 汁を茶碗によそいながら、リビングで椅子に座ってるジャンヌが見えて。そこにまた、由衣の姿が一瞬重なる。

 ジャンヌが来てからずっとだ。似ても似つかないのに、どうしてこんなにも由衣の姿が重なるんだ。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


 ジャンヌの向かい側に座る。


「あの、パンとかご飯は」


 ジャンヌに言われてテーブルの上を見れば。あるのは茶碗に入った汁だけ。パンもご飯もありはしない。そもそも買ってないな。


「買い忘れたな」

「そんな、汁だけじゃお腹がすきますよ」


 お腹に手を当てながら、ジャンヌがそんなことを言う。確かレンチンするパック飯があったような。なかったような。


「少し待ってろ」


 キッチンに戻って、棚の中を探す。するとパック飯がちょうど二つあった。賞味期限は、まだいけるな。あと少しで賞味期限がきれるところだったからちょうどいいか。あとでまた買ってこないとな。

 パック飯をレンチンしてジャンヌの所に戻った。


「ほらよ」

「ありがとうございます。それで、明日から何食べればいいんでしょうか、私」

「出前頼めばいいだろ」

「それじゃあ、お金かかりますよ。せっかく炊飯器とかあるんですから、お米とかいろいろ買って来ましょうよ。料理は私がしますから。そうすれば朝ごはんとか食べれますよ」

「別に朝飯は」

「カップ麺でしょ。わかってるんですからね」

「いやコンビニのパンで済ませるからいらないんだが」

「ダメですよ。いいですか、食事というのはですね……」


 それから耳にタコができるまで、食事の大切さを語られ。俺が「朝飯をちゃんと食べる」と言うころには。パック飯も、汁もすっかり冷めていた。


「わかりましたか」

「わかったから。汁と飯温めるぞ」

「あっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る