お別れ

黒井真心

私の、別れの話

「あのね××ちゃん。」

 一番の親友が、ドキドキしたような、心配なような、ない交ぜの表情で話しかける。

「どうしたの、△△ちゃん?」

 いつもの笑顔で、彼女を安心させようと返事をする。

「私ね、九州の高校に行こうと思ってるんだ。」

「えっ、九州!?」

 中学二年の夏。私と彼女の別れは、ここから始まった。



 私と彼女は関東に住んでいる。九州は、中学生の私にはあまりにも遠すぎた。

「えっ、なんで!?」

 驚く私に苦笑を返し、彼女は話を続ける。

「私、九州の芸術科のある学校に通いたいんだ。」

 彼女の目はキラキラと輝いていて、夢を、未来を見ていた。

「…………そっか!応援するよ!私、△△ちゃんの絵、大好きだもん!!」

 その言葉に、偽りはない。

 私と彼女は美術部に入っていて、よく一緒に絵を描いていた。しかし、遊びで絵を描く私と、本気で絵を描いている彼女。二人の間には、到底埋めることのできない差があった。

 彼女の絵は大好きだし、その才能を認めている。なのに、空っぽな私は心の中で妬み、羨ましがった。醜い私を知られぬように、悟られぬようにどす黒い嫉妬に蓋をして隠してきた。彼女は私のことを、「自分のことを理解してくれる親友」だと思っている。実際そうだし、私が隠し事をしているだけなんだけれど。

 私の友人は、皆、大なり小なり闇を抱えていた。その中で、1番の常識人のふりをしながら、1番病んでいたのは私だったのかもしれない。

 幸福に守られて、傷つくことを知らない、空っぽで愚かな自分。

「私は文章を書く方が向いているからー」

なんて言葉でごまかして、何にも本気になれず、

他人の才能に嫉妬して、これが私の青春のリアル。

 本当に、嗤ってしまう。

「…………………ちゃんと、お別れしなきゃ。」




 そして今日、彼女が旅立つ。

 一年半、ちゃんと向き合ってきた。別れの準備は、済ませてある。

「△△ちゃーん…寂しいよぅ…」

「私も寂しいよ…盆休みは帰ってくるから。そんときはカラオケ行こうね。」

「約束だよ!!」

 今の時代、会えなくてもインターネットを介せばすぐに会話することができる。しかし、会えないのは寂しく、約束を取り付ける。別に果たされなくてもいい。重要なのは内容ではなく、繋がりだから。

 駅のホームに電車が入ってくる。

 もう、お別れだ。

「あのね、△△ちゃん。私ね、ちゃんと頑張るよ!!全力で!!もう甘ったれたことは言わない。みんなと、肩を並べて、恥ずかしくない自分に!なってみせるから!!だから!!!」



見ててね



 彼女は驚いた顔をした後、ニッと口角を上げて、「おう!!」

と笑ってくれた。



彼女は知らない。私の嫉妬を。

それでいい。私は、彼女が大好きだから。伝えた言葉は全て本物だから。

 醜い嫉妬とお別れして、今日からまた、青春が始まる。

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お別れ 黒井真心 @35032146132mm

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