色の話
「同じ色でも、その時置かれた状況によって見え方が違うと思った事は無いかな?その色は人によっても違うと思うんだ。」
紹介してもらったのは、でんき関係の会社だったよ。
電気、電器、電機って何が違うの?って最初は思っていた。まぁざっくり言ってしまうと、
(電気)はビリビリってくるあれ自体の名前、もしくは、でんきに関わる全ての事。
(電器)は一般的に家電などの事。
(電機)は電気を使って動かす装置や設備、機械などの事。
だから電器屋さんは、街の小さな商店から、大型の量販店って言う具合で、それ以外のいわゆる電気を扱う職人さんは、電気屋さんと呼ばれる。
言い換えれば、小さな基盤にはんだ付けしている人も、原子力発電所で大きな電気装置に向き合ってる人達も電気屋さんと言う訳なんだ。
でも誤解のないように。基盤にはんだ付けしている人にも、物凄い技術を持った人もいるし、大きな装置の制御室でただ計器をぼ~っと眺めているだけの人もいるんだよ。
僕が言いたいのは、電気屋さんって言うのは、一言では説明できない位多種多様に亘っているという事なんだ。
で、僕がお世話になった会社は、主に電機の関係で、そうだなぁ、分かりやすく言えば、工場の装置を動かす為に、スイッチやメーターとかが、ごちゃごちゃ付いている箱なんかを作っている会社と言えば分かってくれるかなぁ?
まぁでも、やってる事はそれだけじゃないんだけどね。
そこは、小さな会社で、設計3人、製造3人、事務1人、営業2人(うち1人は社長)の計9人って言う規模だったんだ。
でも、そこそこ古くからある会社で取引先も、誰もが聞いたことのあるような企業が多かったな。
それより何より、気持ちがよかったのが、老朽化に伴い建て替えが終わったばかりの真新しい4階建ての社屋!
1階は製造、2回は社長室と営業、事務3階は設計室と会議室、4階は仮眠室と、シャワー、休憩室、ロッカールームだった。
あぁ、新築の匂いだ。
僕は、設計に配属された。当時図面は、まだ手書きが主流で、この会社の先輩方も手書きしかしたことが無い。しかし、社屋を新しくする際、1台パソコンを買って、専任者を付ける事にしたらしい。1台のパソコンと言っても、当時はマックやウインドウズなんてなくて、図面専用のもので周辺機器も合わせてだが、車が1台買える程の値段がしたらしいよ。
それを僕に使わせてみようという事らしかった。
でも、パソコンも、図面も、ましてや電気の事なんて、何も知らない素人の僕に出来るようになるものなのだろうか?
入社して1週間位は、パソコンを併せた図面装置のメーカーを呼んで、朝から夜まで徹底的に使い方のレクチャーを受け、何とか操作は一通り覚えたのだけれど、これでやっと見習のスタートラインに立てただけだった。
先輩方は厳しく、まずは設計の基礎からたたきこんでくれたんだ。
多分この世界は厳しくしてくれないと、本当の意味で身に付かなかったと思う。ありがたいね。
最初は設計の考え方を教えて貰ったり、先輩方がフリーハンドで書いた図面をトレース(清書)をしたりしていた。
3か月位経った頃、小さな物件だったけど、初めて自分一人でお客さんと打ち合わせをして、設計をして、図面を書いて、先輩がOKを出してくれた時は、本当に嬉しかったなぁ。
それを製造の先輩が形にしてくれて、お客さんの所へ出荷された。
ほっとしていたら、社長が「2週間程で、据え付けが出来るから、連絡が来たら現地に行って、調整してきてね。もちろん1人でね。よろしく。」
………えっ、出張って初めてなんですけど、まだこの仕事始めて半年経ってないんですけど。現地まで800キロ近くはあるんですけど。
社長から手渡されたのは、現地事務所の住所と電話番号、担当者の名前が書かれたメモだけ。う~ん、不安しかない。
当時は携帯電話もなく、カーナビも普及していない時代だったので、地図帳で現地の場所を調べ、会社の固定電話で担当者と打ち合わせ、準備は整ったけど、荷物も多かったので、電車ではなく、会社のバンで、1日かけて現場近くの宿まで移動する事になってしまった。
移動当日は、体力的に大変だったが、翌日からの本番は、精神的に大変だったよ。
でも戸惑いながらも、装置の立ち上げまでこぎつけ、エンドユーザーに引き渡しまですることが出来た。
帰りは、気持ちが楽になったのか、会社に着くまでが早く感じられたよ。
今まで、何の色もなかった、自分が見えているものにも、自分自身にも少し色が着いたような気がした。
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