風の話
「爽やかにさせたり、不快にさせたり、風って自由で、勝手だよね。
優しく花びらを揺らせたり、激しく花びらを吹き飛ばしたりして。
でも風からしたらどうなんだろう、ただ、吹いているだけなのにね。」
僕は中学3年生になっていた。
日本の学校が過去最悪に荒れていたと言われた時代で、その中でも
群を抜いてひどい学校だった。
ある時は、いじめで死人が出たり、またある時は、生徒からの暴力で先生が大けがしたりと、幾度となくテレビや新聞に載るような学校。そんな学校でも僕は、落ちこぼれ中の落ちこぼれだったと思う。
いじめだったり、たばこを吸ったり、挙句シンナーを吸ったりして、でもそれに興味があるとか、面白いとか、自分の意志で、悪い事をしている連中はまだいい。
それに対して僕はあまりにも中身が無かった。
いじめや、たばこはただ僕の周りに縁が無かっただけで、喧嘩は、つるんでいたやつが、やっているから一緒になってやっていただけ。制服もみんなが変なのを着ていたから、一緒になって着ていただけ。でもそんな事より一番悪かったのは、その時僕がつるんでいた連中や、当時付き合っていた女の子にさえ関心が持てなかったんだ。
そんなだから、勉強もそうで、成績もほぼ最下位だったな。
でもそれでもいいや、なんて思っていた。
そんなある日、毎日のように言い争ったり、時には殴り合いの喧嘩をしていた先生から、「お前のような奴が入れる高校は無いし、雇ってくれる会社もない。」って言われたんだよね。
その時は、それこそ先の事なんて考えてなかった。でも、売り言葉に買い言葉じゃないんだけど、「じゃぁ、もし高校に受かったら土下座でもして謝ってくれるか?」と言ったら「ははっ、冗談にしては面白い。あぁ、土下座でも何でもやってやるよ。」って言うやり取りがあったんだ。
でも僕は、その後も暫く、いつも通り勉強もせずいたのだけれど、何か先生とのやり取りが心のどこかにずっと引っかかっていて、日に日に、謝らせてやるって気持ちが大きくなっていった。
すると、そこには、高校に行ってみようかな、本気で勉強してみようかなって思っている自分がいたんだ。
そして、今までつるんでいた連中に「もう、遊べない。」って告げると、もちろんリンチが待っていた。幸い刃物は使わないでいてくれたから、怪我だけで済んだんだけどね。
もちろん、住んでるところも、つるんでいた内の一人の父親が用意してくれた家だから、そこも出て行った。
でも、バイト先のレストランに事情(半分嘘の)説明をすると、家が見つかるまで休憩室で寝泊まりさせてくれたので、本当にありがたかった。
結果、一週間位で家は見つかったけど(歳やら何やらごまかしてね。)さて、勉強だね、う~ん困ったな、生まれてこの方、まともに勉強をしたことが無い。かと言って、学校で教えてもらうのだけは、絶対嫌だ。どうしようと思ったが、すぐに気が付いた。
そうだ、夜は、周りが先生だらけだ。僕のバイト先には、高校生や大学生が多い、しかもレストランの規模が大きく、アルバイトもたくさんいる。歳がばれるのは怖かったが、心配には及ばなかった。
僕の年齢を、バイトの人達のほとんどが知っていたらしかった。
でもアドバイスって、つくづくすごいね。
結論を言うと、公立の有数の進学校に合格していた。
高校の合格発表の後あの時の先生には、約束を果たしてもらうため、あまり生徒が通らない渡り廊下に呼び出した。土下座しようとしたので、さすがにそれは止めてもらったが、しっかり謝っていただいたよ。その約束まで辞めてもらうほど、当時は人間が出来ていなかったからね。ずいぶん後で聞いたんだけど、その先生、僕意外にも何人かの卒業生にもきっちりお礼参りされたみたいだよ。僕意外にも、出来の悪い生徒を相当罵っていたみたい。
肌で感じたら分かるよ、それが激励だったのか、ただの罵りだったのかどうかだなんてね。
さて、合格はしたものの、結局3日程しか登校せず、と言うか出来ずの高校生活でした。
しかし、卒業証書も証明書も貰ったよ。
そこには、今では全く考えられない事があったんだ。
その高校の制服は、黒の詰襟だったんだけど、僕は白の、そうとう変形した学ランで入学式に出て、次の日も、またその次の日も登校したら、校長室に呼び出され、「明日から学校には来ないで下さい。3年後には卒業証明書を送ります。」って言われたので、そうしたら、きっちり送って来たよ。
なんか、有数の進学校だから、1人の退学者も出したくなかったみたい。
3年後、学校から届いた封筒を開けた僕は、ぺらぺらの証明書が、世の中を吹き抜ける風に飛ばされそうな気がした。
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