第15話 多岐な寄道

本屋で僕と十女は別行動を取った。


僕は正直に言うと本は読まない。だからここに来た所でやる事は無かった。しかしまあ、十女が来たいと言うなら、何も言わず着いていこう。


取り敢えずぶらぶらと歩く。その辺りに座っておこうかとも思ったけど、それを十女に見られて変な気を使わせるのも悪い。


平日だと言うのに人はそこそこ多い。皆んな固まってる訳では無く、バラバラに散らばって立ち読みしたり、本を探している。こんなに大量の本があっても、全部誰かしらの需要を果たしているんだ。


歩いていると十女が本を立ち読みしている。


色とりどりに飾られている道に、白色の蛍光灯で一層目立って見える小麦色。


ここの欄はライトノベルと言うやつだろうか。


十女は完全に自分の世界に篭っていた。


ところでライトノベルと小説の違いは何だろう? 華やかかそうでないか位しか違いが分からない。


ライトノベルの欄の方が、若干人が多い。

そりゃ華やかな方を選ぶ訳だ。


そんな素人的意見を勝手に持って、また歩き出す。


すると、一際異彩を放つ画集が僕の眼に入る。凄い威圧感だ。


あの木箱が放つ感覚を思い出した。


僕はそれを手に持ってページを開いた。


(内容は15.5話参照)


この画集を見て、僕はなんだか不安に駆られた。美しい芸術作品ではあった。しかし理解が及ばないくても、それは強烈な不快感を僕に与えた。


僕は本を閉じ、そっと画集を置いた。周りは綺麗な絵画や人物絵の本が置いてある。やっぱりこの画集だけは、異質と呼んで差し支えない。


大体1時間位が経過した頃、暇を持て余しかけてた僕に十女が声をかけた。


「お待たせ。付き合ってくれて有難う。」


彼女は手を肩位に上げた。

両手には何も持って居ない。今日来たのは立ち読みだけが目当てだったようだ。


「何も買わないのか?」


「ええ、お昼ご飯代しかないもの。」


「そっか。」


「買ってやろうか?」


なんとなく言ってみた。僕は毎月お小遣いとして5000円貰っている。バイト禁止の神委高校では基本的に皆お小遣い制だろう。僕は使う宛ても無いので、貯めるか、そもそも貰うのを断っている。だから、高校生には珍しくお金に余裕はあるのだ。


家庭の事情とかもあるだろうし、失礼かとも思ったが、その時は謝ればいい。


十女の眼が一瞬見開く。


「いいよ。また来ればいい。」


「遠慮するな。僕は使う予定が無いんだよ。それに体調も悪いろ? わざわざ来るより持って帰って家で読めばいい。」


十女の眉が少し歪んだ。彼女の眼には敵意が感じられる。


「私はここに好きで来ている。」


「ああ、ごめんよ。無理にとは言わない。」


「ただ……。」


「ただ、1冊買うお金をか、貸して欲しい。必ず返すから。」


「え? ああ、いいよ。いくらだ?」


強がり気味にムスッと顔を顰めて、僕の袖を持つ。

引っ張って行かれた先は、ライトノベルと言われる華やかな場所では無く、灰色を印象付ける、小説をこれ見よがしに置いた場所だった。


そして、彼女はその中から2冊選んでみせた。

僕は手に取り、その小説を裏返す。


両方とも800円弱だった。高いのか安いのかは分からないけど、2冊で1600円。感想としては、払えなくもないって感じだ。


僕は了承の意を示して、2枚のお札を渡そうと取り出す。


「違う。どっちか。旅人はどっちがいいと思う?」


僕から小説を取り上げて、表紙を顔に近付ける。


「どっちがいいかって言われてもなあ。」


読まないからよく分からない。

見た所、1冊目は少女の顔がでかでかと描かれている。真っ白い肌に絡みつく様な髪が印象的だ。学園物のホラー作品らしい。


2冊目は十字の黒い線が真っ直ぐに伸び、それに被さる高校生らしき少女が2人、上下逆向きに対となって描かれている。未来都市が舞台のSF作品との事だ。


「夕帆に上げる。あの子もう直ぐ誕生日だからさ。」


「二月さんへのプレゼントか。」


十女が頷き、口角が緩やかに上がる。


嬉しそうだ。


「俺には決められないや。どうしてその本を選んだの?」


「私が読んで面白かったから。夕帆にも読んで欲しいと思って。」


「だったら、2冊とも買う? 俺は構わないけど。」


「駄目。1冊だけあげる。私から夕帆にプレゼント出来る物なんてあまり無いから……。来年バイトしたらもう1冊あげる。だから、今回だけ協力して欲しい。」


「分かった。じゃあ、こっちにしよう。」


僕はSF作品を選んだ。

ホラーというジャンルを聞いて、最近の出来事を思い出してしまった。僕の現実は正にそのジャンルが当てはまるひ相応しい。


だから、今僕が読むとしたらSFがいい。ただそれだけだ。自分が読みたく無い物は他人に薦められない。


「うん、分かった。こっちにする。」


僕は千円札を手渡し、十女の戻りを少し離れた位置で待つことにした。


レジ袋を抱えてやってきた十女は、嬉しそうにニヤけて僕を見る。


「旅人有難う。本当に助かった。」


レジ袋からはプレゼント包装された本と、紙袋が薄らと伺えた。


晴れやかな気分で僕たちは外に出ると、すっかりと日は沈み、綺麗な夕暮れが目前に広がっていた。


少しだけ暑かった昼間とは打って変わり、丁度良い風が僕らに仰ぐ。


「さ、帰りましょう。」



駅前の本屋からの帰路は、塾帰りの僕がよく使用する道だった。1週間前に木箱や神様と出会った道を既に通り過ぎて居た。


十女は進路とかは決めているのだろうか。勉強はどうなのか。今年の夏で部活道を引退するだろうけど、その辺りはどうなんだろうか。


「旅人、ちょっと公園寄っていい?」


少し前を歩く彼女は振り返り、夕焼けに染まった公園を指差した。

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