第4話 血池の棲物
2021年4月24日、1〜3話をリメイクしました。それの関係上、話の繋がりが不自然です。
順次書き直しますが、ストーリーに変更は多分ありません。このまま読んで頂いて大丈夫です。
第4話は、時系列的には1話の続きで、木箱を覗いている状況からのスタートです。
匂いもない、現実感もない。
しかし、街灯の光が反射して煌めく血の水溜りには、しっかりと歪んだ僕が映し出される。
その中に沈むおよそ人間の末路とは思えない、悲惨な肉塊。
そして、僕の顔をじっと見つめる目玉。それには神経と思わしき長い紐が伸びている。
僕が少し左右に逸れると、しっかりとその黒目は合わせるように着いてきた。正直に言って気持ちが悪い。
「えへへ、凄いでしょう。目だけは動かせるのー。」
そう楽しげに言っているのを見て、僕は木箱に浮かぶ口らしき部位を見る。確かに動いてはいない。では、どうやって声を発しているのだろうか。それについて訊いてみても、んー、と唸り少し考えてから堂々とした口調で不明だという旨を告げられた。
「君は、その……。幽霊ということであっているのかな?」
こんな姿で生きた人間な訳はない。18年の人生の中で、これについては幽霊だとしか表現する方法を知らない。僕はそれを確かめるべく問いかける。
「……幽霊。そうだねー。地縛霊ってとこかな! ほら、ここから全く動けないしねー!」
自分が霊だと、死人だと認識しておきながら、そのことに一切彼女は動じることはない。
僕は幽霊なんて非科学的な物は信じていないが、今はそれで納得するほかなかった。
「あ、そうだ。特技見せてあげるよ!」
「じゃあ、いくよー!」
そう言うと彼女の目玉は、付いている神経をバネみたいにして勢いよくジャンプした。そして血の湖にダイブした。
ぷかぷかと浮かび上がった目玉は、神経を上手く揺らして血の湖を泳ぎ出した。それはまるで蛇を彷彿とさせる姿だった。
「どうどう? 凄くない!?」
目だけはこんなに自由に動かせるんだよ、とでも言いたげに、元気よく、そして何処とも分からない肉の塊を上手に避けながら彼女は自慢した。
「凄いと言われてもなあ。正直今にも吐きそうなんだけど。」
オタマジャクシみたいなその様と、動く度にほつれる筋繊維と髪の束にはやはり気持ち悪さを禁じ得ない。
僕は目を逸らしつつも、なんとか血の水槽を見た。
えい、と彼女が叫んた。
魚の尾ひれみたいに水面を蹴って、僕の顔に血を飛ばす。すかさず手を翳したが遅かった。見事に顔に直撃し、口にも少し入った。
「うええっ」
思わず嗚咽をする。
きもいきもい。まじで気持ち悪い。この目玉親父モドキが、何考えてんだ。幽霊の一部飲み込んじゃったよ。これ呪われたりしないよね?
ちなみに味はしっかりと鉄臭い血の味がした。
「しっつれいねぇ! これでも女の子なんですけどー。」
「だからって、自分の血を飛ばすことはないだろ。口にちょっと入ったぞ。」
僕は手で口を拭きながら、目玉を睨みつける。
彼女は神経で目玉を持ち上げて、何かを思い付いたみたいにピクッとさせた。
「えへへ、間接キスだね!」
果てしなく間接的で、多分僕にとってのファーストだった。
彼女は恥ずかしそうに目線を外し、戸愚呂を巻いている。その姿に何処となく愛らしさを覚えてきたほど見慣れた僕だったけど、やっぱりそのうねうねと動く様子は気持ちが悪い。
くるくると渦を巻くそれを見ていると、まるで犬が自分の尻尾を追いかけているようだったが、彼女はそれに飽きたように止まって、じろっと僕を見た。
「名前」
「え?」
「そろそろ自己紹介しようよー。」
ああ、そういや名前も名乗っていなければ聞いてもいないな。
「僕の名前は、し…」
声を遮るように彼女の声が響いた。
「運がいいね。」
「え、何が?」
「神様がやってくるみたい!」
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