第11話 綺麗な月の夜に

「綺麗な月ですね」




「ええ、とっても」




 少しの沈黙が生まれる。




「今日はこちらに泊まられるのですか?」




「えっと何か勘違いしてるようなんだけど・・・・私はロー―――」




「あっと、失礼しました。ここは言ってしまえばあなたの家族の屋敷ですのでおかしなことではありませんでしたね」




 またやってしまった。こう熱が入ると先走ってしまうのだ。早いうちに言葉を遮ってしまうのはどうにか治したいものだ。




「もういいです......」




 やっぱりあきれられてしまったか。いやまだ挽回のチャンスはあるはずだ。何とかして好印象を残さねば……。






 ―――何で俺はこんなにこの方に気・に・入・ら・れ・よ・う・と・しているんだ? 




 不自然だ。俺はこの方に好意を抱いていない。だって、まだ俺はあいつのことを……。




 いつからだ? 初めて会ってからローズと話した時まではその事をずっと考えてた。ローズとの一件で忘れたのは偶然か? 好意より心配が勝ったからか? 




 これはもしかして精神に干渉する魔法か何か……? 見てるだけで発動する。それか相手が俺にかけているのかも分からない。




 本当に魔法かどうかはともかく、とりあえず離れたほうがいい気がする。




「では、おやすみなさい」




「おやすみなさい」




 考えることが山積みだ。取り合えず部屋に戻ろう。




 ついさっき通った廊下を歩き、階段を下る。そして俺の部屋の扉が見えた。が騒がしいドタドタと足音が聞こえてきた。




「ちょっと待ったー!なんか私に用があったんじゃないの?」




 ハアハアと息を切らせている紅い人がいる。うんローズ様だ。




「ローズ今お客様も来てるんでしょ? そんな夜にドタドタ足音立てて廊下を走るなんてはしたないぞ」




 しかしこれは好都合だ。昼に聞けなかったことを聞くことができる。特に青髪の方の話は聞いておきたい。




「それは、まあ、分かってるけど……」




「取り合えず入る?」




 すぐ目の前の俺の部屋を指さす。




 そして部屋に入り、最近ミキさんに教えていただいた紅茶を入れてみる。




 それを一口ローズは飲み本題に入る。ぼそっと「意外とおいしい」を言ったのはちゃんと聞こえております。




「話ってのは俺の今後の話だ。一応あの執事の話を受けることにするよ」




「ええ、聞いているわ。護衛も兼ねてでしょう。護衛とか必要ない気がするんだけど爺が言うんなら仕方ないわね」




 やっぱりミキさん話していてくれたらしい。




「それで明日の外出もそれに関係してるわ」




 それは初耳だ。よかった。俺を捨てに行くんじゃないんだ。




「もう一個話があるんだが……」




「青髪の人の話?」




「ああ、あの方はどこの何様なんだ? 悪い人には見えない気がするんだが」




 少し考えた後、落ち着いた様子でローズは続ける。




「ええ、悪い人ではないと思うわよ。今は彼女ことを私の関係者って覚えてくれたら大丈夫よ。そうね……名前はアネモネよ」




「へーアネモネさんね。てかお前の家族みんな花の名前から来てるのか?」




 花については詳しくないが、俺が前住んでた施設で花を育てていたから一般的な名前なら知っている。




「そうよ。この国の成り立ちは本で読んだでしょ? それから王の家系は代々花の名前からとるようになっているの」




 そうなんだ。命の花の事だよな……ところで俺の蓮ってだいじょうぶだよな……?




「ちなみに庶民も花の名前からとってもいいのか?」




「花の名前をそのまま使うのはダメよ。一文字変えたりすれば使えるけどね」




 一応大丈夫そうで何よりだ。ばれることはまずないだろうが、ひとまずよかった。




「話が脱線したがその人は何しにここにきてるんだ? 別にお前を連れ戻しに来たわけでもないだろ」




「それは……そう! 私が元気かなーって心配して様子を見に来てくれたの」




 なんか様子がおかしい気がするが……。




「その人とは仲いいんだな。姉妹全員中悪い人だけじゃなくて良かったな」




「そ、そうね」




 と同時に空になったカップを差し出してくる。結構お気に召していただいたようだ。図々しいが主だからグッと嫌味をこらえてもう一杯注ぐ。




「アネモネさんのことで気になることがあったんだ。あの人と何回か話す機会があったんだけど、なんか変にあの人の事をすごく意識してしまうようになるんだ」




「え! 恋?」




「違うわ!!」




 そうとられても仕方ない言い方をしたのは自分だが、それは棚に上げておこう。




「なんつうか頭にそう思わせてくる……催眠に近い気がするんだよ。現に今はまったく気にしてないし。そういう魔法とかあるのか?」




「ああ、そういうことね……。やっぱり調整できてないみたい」




 なんか一人でぶつぶつ言ってる。分かったんなら説明してほしいんですけど。




「取り合えずそれは魔法なんかじゃないわ。そういう説明は明日外出したら説明するけど。彼女と話す時は目を合わせない、近づきすぎない、意志を強く持つ、体をつねるとか持つで少しは軽減できるわ」




 方法そういう対策があるのか。それなら案外できそうだな。




 急に驚いた表情をする。




「―――待って、なんで解けてるの・・・?あれは発動したら最低半日は続くのに……?」




「? どういうことだ?初めはそのくらい続いてたけど。二回目にあったときは話していると急に頭が冷えてきたって言うか冷静になれたな」




 あんな無差別催眠半日以上続くの結構大変そうだな。という考えそっちのけでローズは驚いたままだ。




「あんたその時と何か違うことはしたの?例えばケガをしたとか」




「そんなことはないけどな……。そう言えばこのペンダント最初はつけてなかった気がするが、そんなの関係ないよな?」




 首に掛けていたペンダントを見せる。最初合った時はミキさんが部屋を訪ねてくる前に日課のペンダント磨きをした後にそのままつけるのを忘れてしまっていたのだ。これがよくあるのが困る。




「ちょっと見せてみて?」




 首からとって手渡す。少し触ってよく見ている。




「これ、すっごく貴重な物じゃないかしら? こんなものどこで手に入れたの?」




「貴重って言われればそうだな……どこっで言われても知らないんだよ。両親の形見みたいなもんなんだ。これがどうかしたのか?」




「知らないんならいいの。明日まで借りていてもいい?」




「いいけど……手荒に扱うなよ」




 はいはいと言いながら丁寧に扱ってくれた。




 結局このペンダントが原因だったのかよく分からなかったがローズが何か気づいたようなので大丈夫だろう。




「で、話は終わりか?」




「ええ、もう終わりよ」




 そう言うとローズは立ち上がり部屋を去っていった。結局お茶を四杯飲んでいったようだ。気に入っていただけたのか知らないがなんかうれしい。

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