第10話 話はしっかり聞くべきだ

 ともあれ昼食の時間が訪れた。




「あれ? ローズはどうしたんですか」




 いつもローズについているはずのミキさんが一人でダイニングルームにやってきた。




「ええ、まあ」と何とも言えない感じだ。




 恐らくあのローズの姉妹がかかわっているだろう。




「えっと、大丈夫なんですか?」




「大丈夫と言えば、大丈夫ですよ。いつもの事ですから」




 そう言ってそそくさと厨房の方に向かって行ってしまった。




 ぜんせん分からない。とりあえず大丈夫ならよかった。




「今ってあいつに会ってもいいですか?」




 食事が終わり解散しようとしたところでそう尋ねた。(解散というがダイニングルームには俺とミキさんとしかいなかったが)執事兼護衛の話だったり、あの青髪の女性について聞いてみたかったので会えればいいのだが。




「そうですね・・・おそらく夜になれば大丈夫だと思います。ですがそれまではお嬢様の部屋の周りには近づかないでくださいね」




「分かりました」




 少し怪しいが下手に突っ込んだら後が怖い。今は言うとおりにしておく方がいいだろう。










 そう思ったのですが、気になるのはダメなことでしょうか。いや仕方のないことだと思います先生。




 あいつの部屋はこの屋敷の三階の右の角部屋にありその道中にメイドたちの部屋があり近づくと気づかれてしまう。どうにか気づかれずにやり過ごしたいのだが。




 そう思いながら部屋で歩き回っていると突然部屋の扉がドカンという音ととも開いた。




「ちょっといるんなら返事しなさいよ!いくらノックしても返事しないのは非常識じゃないかしら」




 ノックしないあたりで誰か分かったが実はノックはされていたらしい。飛んで火に入る夏の虫とはこの事か。いや違うか。




「すまん考え事してたわ。で何の用?」




 少し考えた後ローズはいつもの彼女らしからぬ様子でこう言った。「聞きたいことがあって、あの、あんたが会ったていう青い髪の女の事なんだけど……あれ実はわた―――」




「ああ、あの方ね、すごく綺麗なひとだったな。それでいてお淑やかで優しそうな人だったよな。いつか紹介してくれよ」




 何かまだ言いかけていたのにかぶせたのが気に食わなかったのか赤くなって俯いて怒ってやがる。




「えっと……なんかごめん。何を言いかけたんだ?」




「もういい!」




 凄まじい声量での一言は俺の鼓膜を破壊する勢いだった。怒り心頭の様子だ。どうしよ契約解除されないよね?まだろくに仕事してないけど。




 そう言って出て行こうとするローズを止めることもできずにいると、急にローズが振り向き言い忘れたことがあったのかこっちに近づいてきた。




 顔の赤さも引いたようだが不満のこもった瞳で無言で見つめてくる。




「あの、ローズさん? 大丈夫ですか?」




「明日外に出る用意をしておきなさい」




 そう言うとドカドカと出て行ったのであった。お姫様らしからぬ歩き方で。




 何ですか? 捨てるんですか? やっぱりノックにすぐ気づかなかったのがまずかったのか? というか外に出る用意って服もこの屋敷の人が用意してくれてるし俺何もすることないんだけど。




 とりあえず早寝早起きを心がけよう。そう言えばコッチの話できなかったんだけど。言うことだけ言って帰りやがって。




 そうして夕食の時間になったが彼女の機嫌も治らず無言の食事時となったのだが。




「今ちょっと暇? 話があるんだけど」




 話しかけたのは今から食事だろうかダイニングに入れ違いになろうとしていたちっこいメイドだ。




「え?……暇ですけど」




 突然のことに驚いているようだ。




 場所を変えて俺の部屋に移動した。そして俺はベッドに腰を掛けて、カナは手前のソファに座った。




「てか俺のこと監視してるんじゃないのか?」




「ギクッ、い、いや私も暇じゃないからですよ」




 怪しいなんか「ギクッ」とか言っちゃてるし。




「ホントは?」




「めんどくさいからです。……あ、忘れてください。と言うかあなたへの私の疑いが晴れたからですよ。よかったですね」




 三日坊主以前の問題だな。そしてなんか言葉が後半棒だったのは気になる。




「まあいいか、話は変わるが……結局何が間違ってたんだ?」




「いやわけ分かりませんよ。皆さんの食事が終わって急に呼び止めて話があるなんて言い出すからなんだろうって思ったのに……。私はまだ夕食食べてないんですよ。要件は何ですか? 早くしてください!!」




 と運悪くダイニングから出た時に目に入ってしまった被害者カナは言う。




「俺首なのかな? いやこの場合はまだ雇われる前になるから首にはならないのか。それより何に怒ってたんだと思う?」




「詳しく説明もせずに答えを求めようとしないでください! それにあのローズ様が怒るってそれはやっぱりあなたが失礼なことをしたせいに決まっていますよ。お嬢様はつまらないことで怒りません。さっさと地面に頭こすりつけて謝ってきたらどうですか」




「土下座っておまえなぁ」




 やっぱりえらくローズのことを心酔してるな。聞く人間違えた気がする。でも実際失礼なことしてたしなぁ。よし寝る前に一度改めて謝りに行くか。




「参考になったよありがとう」




 わしわしと頭をなでて部屋をでる。少し抵抗されて足を踏まれたが特に支障はない。




 そしてローズの部屋に向かっているとあの青髪の女性を見つけた。窓から月を眺めていた。




 夜の波に青髪は靡いている。




 そういえばあの時はほとんど何も話せなかったし今度こそよく話して仲良くなろう。




 変な人って思われてたらどうしよう。もしかしたら勝手に話して怒られるかもしれないが……その時はその時だ。

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