第9話 青髪の麗人

 椅子にしなだれかかっている男は天井を眺めながら眉をハの字に曲げている。




「これからどうなるんだよ。運動はある程度できるんだけどな~」




 話はつい数分前にさかのぼる。










「身辺警護って俺戦えないですよ!? 一般人よりちょっと足が速いかなぐらいで、喧嘩とかもしたことありませんし……執事ならまだ勉強すれば何とかなるかもしれませんが。戦いとか無理ですよ」




 護衛って何ですか? あの身を張って命がけで守るやつ? 無理無理絶対無理、こういう世界の護衛ってあっちと違って本当に死んじゃいそうなんですけど。




「ですので、鍛えさせていただきます。ある程度はできるようになっていただきますがよろしいですか? お金は気にしないでください。こちらが必要としているので」




「いや、でも命の危険が......」




「ですが断られますと困りますな……これまでの衣食住を用意した上にこの国にの言語などを教えたお嬢様に何の恩義も感じないとは……なんと心のないお方なんでしょうか。私は人を見誤ってしまったようです。すいませんお嬢様」




 こ、こいつ、じゃなかったミキさん恐るべき……。




「…………分かりました、分かりましたよ。ちゃんと鍛えていただけるのであれば死ぬこともないでしょうし」




「ありがとうございます。鍛える方は安心してください。ちゃんとした人にもう連絡をしていますので」




 よかった。ちゃんと真剣に頑張ればなんとかなりそうだ。―――ちょっと待てよ。




「え、もう連絡入れてるって?まだ返事してなかったですよね。まさか折れることを見越して……」




「ええ、あなたなら二つ返事で引き受けていただけると信じていましたよ」




 凄い、この人もう手を回してたんだ。この人どこまで先読んでるんだろう。










「運動ができたところでだよな~」




 てか鍛えるところのちゃんとした人って誰だよ。どっかの道場の師範とかか? 怖い人でないことを祈ろう。この話あいつに話しとかなきゃいけないし。結構やらなきゃいけないことでてきたな。もうゴロゴロしてたい。




 お昼まで時間があるし図書室にでもいって時間をつぶしつつ勉強でもしよう。




 ―――と思い図書室に向かっていると長い青髪の人影が見えた。この屋敷に長髪青髪の人はいなかったよな? まさかローズの親戚か誰かがあいつを連れ戻しに来たのか? 多分そういうのを含めての身辺警護って言うか護衛を任せたんだよな。




変なものに巻き込まれる嫌な予感がするが……行くしかないか。




 その女性はバルコニーから中庭にある庭園を眺めていた。横顔は息をのむほど美しく、雰囲気はまるで違っていたが顔の形は結構ローズに似ていた。




 これはほぼ連れ戻しに来たことは濃厚だろう……




護衛として最善は尽くしますローズ様。でも連れ戻しに来たのにしてはなんとものほほんとしてるというかここの庭園を眺める余裕はどこから来るのだろう。ともかく話をしてみるしかないか。




「きれいな庭園ですよね」まずは当たり障りのない会話からだ。


 彼女はこちらをちらりと見ると微笑を浮かべながらこう言った。




「そうですよね、私も大好きです」




 第一印象はすごくいい人に感じられる。本当にこんな人があいつをいじめたりしてるのか?俺みたいな見知らぬ人にも物腰低くいし。




 とりあえずこの調子でここに来た目的を探ろう。そしてもしも連れ戻しに来たんならどうにかしないといけないな。




「今日は何しにこちらへいらっしゃったんですか?」




「? この庭を見に来たんですけど?」




 おっと、これは大丈夫なパターンではないでしょうか。




「そうですか、ではごゆっくり」




「? ええ」




 なんだかよくわかっていなそうだったけどこれでいいんだ。




 と軽やかな足取りで廊下を歩いていると掃除を終えたのか向こうからサキさんが歩いてきているのが見えた。




「何してるんですか?」




「いや、ついうれしくて。すいません」




 淡泊な反応をされると結構恥ずかしい。




「何がそんなにうれしかったんですか?」




「それはですね、ローズの妹かお姉さんがいらっしゃったんですよ。なんかあいつが言うよりよっぽっどいい人に見えましたよ」




「! 本当? どちらにいらっしゃったの? 」




 変に驚いているというかあせってるな。やはり姉妹となにかあるのか? けどそんな風には見えなかったけどな。




「えっと、すぐ近くの庭園を見渡せるバルコニーにいましたけど……」




「すぐに行かなくては。皆に知らせてきて私は先に向かっているから。っと、あとどんなひとだった? 髪の色は? オレンジ色? 紫色? どっちだった」




「いえ、青色でした。顔の感じはローズにそっくりでした」




 といったところで急にサキさんは動きが止まり。落ち着いたようだ。




「何が何だかさっぱりわからないんですけど。大丈夫なんですか? 」




「やっぱり大丈夫です。気になるのでしたら後でローズ様に直接聞いてみてはいかがでしょう」




そして大きなため息をついた。




 そして普段の足取りで離れていくサキさんの後姿はなんか怒っているようだ。よく分かりませんがすいませんでした。

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