中編
その日、月が輝く夜だった。
ロネは店を閉めて昼間の笑顔とは想像できないような無表情で、黒いローブを羽織り、首都の森の外れにある、かの有名な「ルオーの屋敷」を目指して歩き始めた。
かと思いきやロネが右の人差し指で丸を描くと、ロネの体は薬草カフェの前から、ルオーの屋敷の前へと移動していた。どうやら瞬間移動魔法を使用したようだ。
森の動物たちがロネの姿を見ると、一目散に逃げ帰る。その漆黒ゆえか、その無表情さゆえか、森の王者と呼ばれるオオグマでさえ、逃げ帰る。
ぎぃ、と古びた木の扉を開けると、そこには外見からは想像もつかないような豪華な部屋があった。上には豪華なシャンデリア。両脇には部屋に中心部に向けての大理石で出来た階段。そして、真ん中には長く白く冷たいクリスタルのテーブルがあった。
ロネはそのまんまの無表情でパチッ、指を鳴らすとシャンデリアは輝き、テーブルの上には豪華な料理が並んだ。テーブルの中心部には真っ青な薔薇が豪華絢爛に飾られている。
そこまですると、ロネはフードを脱ぎ、店でも見かけた白梟、ルルゥを召喚し、十二枚の招待状を持たせる。十二人の姐兄弟子への招待状だ。
「よろしくね、ルルゥ。……ちゃんと届けるんだよ、じゃないと叱られるのは私だから」
そう言ってルルゥはロネの言葉を理解したように頷くと入口の上にある召喚獣用の丸い穴から飛び出て行った。
半刻すると、十二人の姐兄弟子たちが、ルオーの屋敷へと現れ始めた。それぞれ席につき、最後の十二番目の弟子、シオンが席に着くと、ロネも十三番目の席に腰をおろす。そして、一番目の弟子、ササラがグラスを手に取り、掲げる。
「皆、よく集まってくれた。偉大な師、ルオー様が息を引き取り、百十七年目の節目の日だ。この日を忘れぬようこの杯を掲げようでないか」
軽い挨拶をして、十三人全員で「ルオールサ《偉大なるルオー》」と言い、杯に現れた水を飲み干す。暫く無言の時間が続き、各々料理を口に運び始める。そして、話し始める。
「して、ササラ。おめぇさんの信仰は集まってるのか? 」
口を開いたのは、五番目の弟子、バーナント。
「口の利き方がなってないわよ、バーナント。ササラ様に向かって」
彼を窘めるのは八番目の弟子、アイネ。
「まぁまぁ気にすることではないよ、アイネ。そうだね、思ったよりも上手くいっているよ」
とササラ。黄金の髪を靡かせながら言う。
「そういえば、カティエ。前に実験していたら左腕を切り落としてしまったんだ。再生してくれないか? 」
そういったのは九番目の弟子、ウィンニョム。
「またですか? あれほど体の一部分は切り落とさないよう、注意したでしょう? 」
と、六番目の弟子、カティエ。
「そういえば、僕も右足無くしたんだった。カティエ、治して欲しいな? 」
と、十一番目の弟子、ベイルローズ。
「ベイルローズ様もですか? 」
やれやれと呆れるカティエ。
「二人とも実験バカな所は変わらないんだね。ふふっ」
笑うのは、十番目の弟子、エルラ。
なんだかんだで時が過ぎてゆき、皆料理を平らげ、解散する時刻になった。酒を飲みすぎた七番目の弟子、タブースを四番目の弟子、ミカエラが送ることになり
「まったく、なんでこの僕がタブースなんかを送んなくちゃ行けないんだ」
「仕方ないよ、だってタブースだもん。いつものこと、……でしょ……? 」
遠慮がちに言うのは三番目の弟子、ナシュカ。
「そーだそーだ、ミカが運ぶのはいつも、だろ? な? 」
ニカッと笑うのは二番目の弟子、ウェイスト。
「煩いな、ウェイスト。ナシュカ。万年氷の中にぶち込んでやろうか? 」
「それは怖い! やめてくれよ〜 」
屋敷を出て、和やかな雰囲気の中、ササラがロネに小声で言う。
「後片付けはロネの番だ。……よろしく」
ぽんっと、かたに手を置く。
「任せてくださいよ、ササラ様」
にぃっと、ロネは闇夜に溶け込む笑顔を見せた。
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