第7章 - 1 翔太の決心

 1 翔太の決心

 



 箱根旅行から帰って二日目の朝、達郎は元々の予定通りに病院へと戻っていった。

 旅行中も辛そうな様子を見せず、達哉は心の底から行ってよかったと思うのだった。

 ただもうこれで、よほどのことがない限り、達郎が家に戻ることはない。

 そんなことを思うと、どうしてもっと前から……などと、それなりにクヨクヨしたりした。そして、実は当の本人も、やはり似たようなことを思っていたらしい。

 宿の部屋で、翔太と達哉、そして達郎と三人、枕を並べてそろそろ寝ようかという時だった。達郎がいきなり、呟くようにポツリと言った。

「なあ達哉、うちはもっと前から、家族旅行とか、いろいろするべきだったよな……」

 そんな突然の投げ掛けに、驚きながらも達哉は思ったままを返すのだ。

「ああ、でも、俺はきっと行かなかったんじゃないかな……あ、もちろん、小さい頃は別だろうけど……」

 すると翔太が顔を上げ、驚いたように声にした。

「え! どうして一緒に行かないんだよ?」

「う〜ん、ちょっとだけ、反抗期だったから……さ」

「へえ、反抗期なんて、実際になっちゃうもんなの?」

「なるよ、普通はだいたいなるでしょうって〜」

 そこで翔太が沈黙し、天井を見つめ、考え込むような素振りを見せた。

 そんな彼の姿に、達哉は心に思うのだった。

 ――でも、あんたのお陰で、そんなのから抜け出せたんだよ……。

 そして反対側に寝ている達郎へと向き直り、やはり本音を言葉にするのだ。

「でも、親父もずっと仕事仕事だったしさ、実際は旅行どころじゃなかったじゃん。だからさ、仕方ないって……」

 勤務医を辞めて、町医者として開業したばかり……。

「おまえが物心ついた頃には、朝から晩まで働いてばかりだったから、父親として、何もしてこなかった……おまえには本当に、申し訳ないことをしたと思ってる……」

「そんなこと、ないけどさ……」

「そうそう、高度成長時代だったんだから、お父さんだけじゃなくて、誰だって似たような感じだったと思いますよ……それに……」

 翔太が達哉の言葉を引き継ぐようにそう声にしてから、さらに上半身を起こして達哉に向けて言ったのだった。

「やっぱりさ、反抗期なんてのは、余裕がある証拠っていうか、〝脛かじり〟の甘えん坊さんだけがすることだって思うよ。両親がどれだけ必死に生きているかなんて、まるで考えないでいるっていう証明でしょ……? 達哉くんは、そう、思わない?」

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