第6章 - 2  新たな危機(4)

 2  新たな危機(4)

 



 寒い……どうして、こんなに寒いんだ?

 そんなことをなぜか思って、すぐに地べたに寝ている自分を知った。

 頭痛が酷く、顔やら腰なんかがやたらと痛む。そうしてやっとすべてを思い出し、今いる場所がアパートだったと知ったのだ。

 当然ながら山代はいない。

 気を失った達哉を再び部屋に引っ張り込んで、ご丁寧にカギまで掛けて消えていた。それからいろいろ考えて、達哉なりに事の成り行きに結論を出した。

 母親の名前を伝えてしまったことで飯田由美子を思い出し、山代はやっぱり天野翔太を利用しようと考えたのだ。

 そして金貸し屋にそのことを伝え、彼はまんまと逃げ出した。

 ――でもどうして、あいつはあんな顔していたんだろう?

 いかにも痛め付けられたって姿だったし、達哉が現れた瞬間は、驚いたというより恐怖の顔があったように思う。

 ただとにかく、翔太に危機が迫っているのは間違いないし、

 ――早いとこ、親子なんかじゃないって証明しなきゃ!

 そう思い、達哉が部屋を出ようとした時だった。

 ――証明するって……どうしたら? 

 山代のO型ってのは間違いない。いざとなったらあの看護師さんに証言して貰えばいいし、検査だってなんだって証明する手立てはあるだろう。

 ところがだった。母親である由美子の血液型を証明するには……、

 ――確か、母子手帳に……。

 そう思った途端、そこで閃光のように閃き、浮かび上がった。

 ――だから……部屋を荒らしたのか?

 母子手帳がなくなれば、癌で入院していた病院だけが手掛かりとなる。

 ――十年以上も前のカルテって、保管してあるもんなのか?

 病院での証明ができなければ、いくら血液型はB型だったと言い張ったところでダメかもしれない。

 考えれば考えるほど不安になって、達哉は慌ててアパートを飛び出した。

 ――もうこうなったら、警察に事情を話して助けてもらおう!

 その為にも急いで千尋に会って、警察に相談した結果を確かめたい。

 ――いざとなったら、また安藤さんに頼んだっていい!

「また何か困ったことがあったら、遠慮なく相談に来いよ! 本田が退職するまでなら、そこそこ協力できると思うしな!」

 事件後、千尋と翔太が再び長野を訪ねた時に、そんな言葉を言ってくれたと笑顔の翔太が教えてくれた。

 ――そうすれば絶対、大丈夫に決まってる!  

 そんな期待を必死に思い、彼は千尋のアパートへ急いで向かった。

 ところがだ。

 いくらノックをしても返事がない。 

 警察に向かった後は部屋にいて欲しい……そう頼んでいたのに、さすがに待っていられなかったらしい。

 ――そりゃ、そうだよな……。

 朝、千尋と別れてから、すでに八時間近くが経っている。

 外はとっくに暗くなって、こんな時に一人、部屋にいるのは怖かったに違いない。

 ――では、どこに行ったんだ?

 ――もしかして、何か進展があって出掛けたのか?

 ――だとすれば、やっぱり警察に向かうべきか?

 そうすれば、そこに千尋がいなかったとしても、警察の対応具合を知ることはできる。

 残りの可能性すべてを吹っ切って、彼はそこから警察に向かおうと決めた。

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