第6章 - 2  新たな危機(3)

 2  新たな危機(3)




「あんたがやったのか! あんたが、天野さんを連れ去ったのか!?」

 そんな達哉の声に、なぜか山代の顔がホッとしたような感じに見えた。

「どうなんだ! 部屋をメチャクチャにしたのもアンタだろう!!」

 さらに大きな声でそう言うと、山代が一気に破顔する。

 声を上げて笑い出し、そうしてやっと、達哉に向けて声にしたのだ。

「なんの話だ? そもそも、お前さんは誰なんだよ? 勝手に入ってきやがって、さあ、とっとと出て行ってくれ! 俺はこれから出掛けるんだ!」 

「嘘付け! その傷はなんだよ? 天野さんとやり合ったんじゃないのか?」

「ああ!? いったいどうして、天野なんかとやり合わなきゃならんのだ? 逆に俺はな、あいつに〝いい子いい子〟してやりたいって、本気で思ってるくらいなんだぜ」

 いい子いい子してやりたい。

 そう聞いた途端、すべてが一気に鮮明になった。

「お前、まさか……」

 ――借金を、

 ――また、天野さんに?

 ――そんな嘘だ……ろ。

 愕然とする達哉を眺め、山代はストンと笑顔を消し去る。

 そうしていきなり大声を出し、ここぞとばかりに凄むのだった。

「てめえみたいなガキなんかに「お前」呼ばわりされる筋合いはねえ! 」

 山代はそう言ってから、達哉にササッと歩み寄る。

 顔をいきなり近付けて、囁くように告げるのだった。

「殺すぞ……てめえ……」

 それからさっさと達哉の横を通り過ぎようとする。

 その瞬間、達哉の冷静さは木っ端微塵に吹っ飛んだ。

「殺すぞ、だとおお!?」

 気付いた時にはそう叫び、彼は山代の背中に飛びかかるのだ。

 ところが次の瞬間、山代の身体がフワッと揺れる。あっという間に背中が見えなくなって、いきなり顔にガツンと衝撃だ。

 え? と思う間もなく、続いて横っ腹にも第二打が来た。

 これがなんとも強烈で、達哉はあっという間に膝を突き、うずくまってしまうのだ。息がまったくできなくなって、それでも必死に相手の姿を目で追った。

 すると山代はすぐそばに立ち、ニヤついた顔で達哉のことを見下ろしている。

 何かを言ってやりたいと思ったが、短い呼吸を繰り返すだけで精一杯。そうして十数秒くらいが過ぎ去って、それでもどうにか、身体を起こそうとした時だった。

 少し浮かした頭目掛けて、山代の足が振り下ろされた。

 ガツン! 

 そんな後頭部への衝撃は、そのまま顔面をコンクリートの床に直撃させる。

 その瞬間、パッと閃光が脳裏に走って、彼はそのまま気を失ってしまった。

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