第4章 - 2 超能力(3)

 2 超能力(3)




「天野さん、施設で色々あったじゃないですか? もちろん、天野さんが悪いわけじゃないんだけど、屋上から飛び降りちゃったり、しましたよね? で、その時、一緒だった荒井くん、覚えてます? 覚えてますよね? 忘れるはず、ないもんね……それから、十三歳で自殺した生田絵里香さんのことも、当然、覚えているでしょ? ねえ、どう思っているんです? この二人の仇を、いいかげん、打ってやりたいと思いませんか? 林田や施設長は今だって、何も変わらずやりたい放題やってるんですよ……」

 ここでゆっくり翔太の視線が達哉から外れた。

 と同時に、その隣に座る千尋の顔も視界の隅っこで大きく揺れる。

「天野さん、俺はね、あんな奴らを許しちゃおけない……。絵里香のことはもちろんだけど、荒井だって、ちゃんとしようと、彼女と一緒に真面目に生きようとしてたんだ。それをあいつら、何から何まで、好き勝手やりやがって……くそっ!」

「ちょっと、ちょっと待ってくれ……それって、え? なんで? おかしいだろう……まさか、施設にいたのか? 千尋と、おんなじ歳だよな? え? いたのか? あそこに、あんたもいたってのか!?」

「名前は忘れちゃったけど、施設で同室だった少年を探したらどうでしょう? 彼がまだノートを持っていれば、あいつらをギャフンと、言わせることができるんじゃないでしょうか?」

 どうしてこんなことを言い出したのか、話しているうちにあの頃の記憶が蘇り、達哉はまさしく興奮していた。

「でもね、天野さん、その前に、やらなくちゃいけないことがあるんだ。それは林田や施設長とおんなじくらい、いや、それ以上に最低最悪なヤツへの復讐ですよ!」

 酔っ払っていたのか? 

 はたまた彼との時間に興奮したのか?

 ただ、どうだったにせよ、この突発的な発言は、それなりに効果絶大だった。

 どうしてそうなったのかは分からない……ある日突然、頭の中に浮かび上がった。だから必死になって探し回って、やっと「DEZOLVE」という店を発見できた。

 それから、なんとかして真実だけでも伝えたい。そんな一心で、今、この瞬間を迎えていると、達哉は必死に声にする。

 それから施設でのことをいくつか聞かれ、さらに両親のことも質問された。

 当然、どれもこれもが過去の事実で、達哉にとっても記憶の中のひとコマだ。だからうる覚えでも外れはないし、幸い聞かれたことぜんぶが記憶にしっかりあったのだ。

 母親の生まれた年を尋ねられ、「大正九年」と達哉が返すと……彼は下を向き、両手で顔を覆ってしまった。

 そうして翔太が黙りこくって数分間、二人はドキドキしながら待ったのだ。

 きっと、どうして知っているのか、どんな理由によるものなのかと、彼なりに考えようとしたのだろう。

 しかし何をどう考えようと、納得できる答えなどが見つかる筈もない。

 だからいきなり怒り出すとか、この場からいなくなってしまうなんてことにならないよう……ただただ心のうちで必死に祈った。


「で、伝えたい真実って、いったい何?」

 彼がそう声にした時、迂闊にも達哉はその場にいなかった。

「これから起きる、大変なことって、いったいなんなの……?」

 だからそんな彼の質問に、千尋が必死になって答えを返した。

「詳しいことは、藤木くんから聞いて欲しいの、でもね……」

 そうして達哉がトイレから戻ると、すでに両親との血液型の話になっている。戻った彼を見上げる千尋に、達哉はそのまま続けるようにと告げたのだった。

 結局、天野翔太の血液型がA型ならば、とりあえずのところは信用しようということになる。

 翌日、三人揃って近所の診療所に出向き、翔太の血液型を判定して貰った。

 するとやっぱりしっかりA型。

 その結果を知って、彼は真剣な顔で達哉に向けて声にした。

「伝えたい真実ってヤツを、教えてください」

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