第4章 - 2 超能力(2)

 2 超能力(2)

 



 驚くように目を見開いて、少し考えるような素振りを見せる。それでもすぐに、千尋はしっかり自分の思いを口にした。

「普通はさ、それってないでしょ? だいたいビールは空きっ腹に呑むものだし、空きっ腹だからこそ、クー美味しい〜ってなるんじゃない?」

 そう言ってから、彼女も翔太の顔をジッと見る。

 ――あなたはどうなの?

 まさに千尋の顔はそう告げていて、もちろん達哉も翔太の方に目を向けている。

 そんな二人から見つめられ、翔太は意外にも真剣な顔を崩さなかった。

「どうなの? 空きっ腹にビールって、苦手なの?」

「苦手、だよね? できればさ、チャーハンとか食べた後に、生ビールをグイッと行きたいって方でしょ?」

「そんなの変、絶対変だって!」

「そんなことないって、そういう人っているんだよ」

「おかしいじゃない、だってさ、先ずはビールって言うんだよ。それをさ、先ずはチャーハンって、それでビールってこと? なんか、笑えるよ〜」

「あのね、胃が弱い人とか、ビールって炭酸だから、結構胃のなかを荒らすんだよ。医者に掛かると、飲む前にさ、何か食べてから飲みなさいって、本当に言われるんだって!」

 そこそこ必死にそう言ってから、達哉は翔太の方を向き、

 ――ね? そうだよね!

 という顔を必死に見せた。

「藤木くん、ご名答!」

 ――でしょ?

「凄いな、どうして知ってるの?」

 ――それがさ、問題なんだ……。

「実はさ、そうなんだよ!」

 ――そうさ、だって知ってたもん。

 なんてリアクションを想像し、彼は心の中で確信したのだ。

 ――これできっと、上手くいく!

 ところがだった。いくら待っても反応がなかった。

 真剣な顔どころか、眉間にクッキリ皺まで寄せて何やら考え込んでいる。

 達哉と千尋は顔を見合わせ、暫しそのまま待ったのだ。

 すると十秒くらいが経った頃、いきなり彼がポツリと言った。

「あのさ、藤木くんって、俺の生い立ちとか、両親の名前とか、知ってるんだよね?」

 そんな翔太の声に、千尋が慌てて人差し指を鼻先に当てる。

 ――わたしが言った。

 そう言っているのはすぐ分かったし、となれば、いきなり本題ってのが筋だろう。

 さあて、ここからが本当の勝負の時間……。

「はい、かなりの部分、知っていると思います」

「で、胃が弱いことも、当然知っていると……」

「はい、そのせいで将来、どんな病気になってしまうとか、他にも、実はいろいろと知っています。これから起きる大変なこととか……」

 そこで翔太はビールジョッキに手を伸ばし、残っていたビールを一気に飲み干す。それからフーと息を吐き、空になったジョッキを見つめ、声にするのだ。

「あなたさ、いったい誰なの?」

 ――どうして、そんなことを知っている?

 その顔がまさに、そう告げていた。突き刺すように厳しい目付きで、まるで睨みつけるようにして達哉の返事を待っている。

 達哉はこの時、ほんのちょっとだけムカついた。

 ――なんでそこまで睨むんだよ!

 なんて感じて、フッと魔が差したのだ。

 決して悪意的なものじゃない。

 それでもそこそこ強烈に、対抗する感情が湧き起こる。

 彼は心に強く思うのだった。

 ――睨みつける相手は、俺じゃないだろう!

 不思議なくらい唐突に、用意していたストーリーが吹っ飛んだ。

 そして最後の最後に用意していたセリフが、一気に達哉の口から溢れ出る。

「天野さんさ、中学ん時、施設にいたでしょ?」

 たったこれだけで、翔太の目付きがグラついたのだ。

 ――なんだ、施設のことは聞いてないんだ……。

 そう思った途端、達哉の感情は一気に高ぶり、言葉が次から次へと止まらなくなった。

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