第1章 - 2 平成三十年(5)
2 平成三十年(5)
形やら色やらまるで別物……とにかくなんともカッコイイのだ。
――俺の時代なんて、ダサダサじゃん!
時刻はかなり早かったから、通勤ラッシュには程遠い。それでもたくさんの会社員らが乗っていて、皆一応に手にある何かを見つめているのだ。
それが〝スマホ〟ってやつだと気付くのに、時間はそんなに掛からなかった。
「ああ、これも忘れちゃったんですか? スマホですよ、スマホ!」
吉崎がそう言って、笑いながらもいろいろ説明してくれた。
きっと新聞を読んだりニュースを見たり、中には映画の鑑賞中だって乗客もいるのかも知れない。
――あんなにちっちゃなもんで、何から何まで、出来ちまうんだ……。
凄い時代になっている――そんなふうに考えて、達哉のテンションはほんの少しだけ上向いた。そうしてあれやこれやと驚きながら、それでも迷うことなく、あの〝T字路〟に到着する。
先ずは突き当たる道に顔だけ出して、左から来る車との距離をしっかり確認。それから少し後戻りして、タイミングを見計らい、T字路に向かって走って突っ込む。
何度も何度も考えたのだ。
――死んじゃうってこと、ないだろうな……?
そうなる危険は確かにあった。
こんなことになった理由も知らず、なんの確証もありゃしないのだから。
それでもすぐに、彼はアパートの天井を見つめながらに思うのだった。
――だったとしても、このままじゃ、藤木達哉は死んだも同然……。
などと思い直して、達哉はここまでやって来た。
ところが実際やろうとすると、タイミングがなかなか合わない。
走り込む寸前、クルマが目の前を走り去ったり、走り込んでも車と距離がまだあって、思いっきりクラクションを鳴らされてしまった。
彼は慌てて飛び退いて、その都度脳裏にしっかり蘇るのだ。
その瞬間、まるで爆音のような音が響き渡った。
「え?」と思って反対を向くと、すぐ目の前にまで大きなダンプが迫っている。
――ああ、クラクションだったんだ
妙に冷静にそう思え、そんなのと同時にブレーキ音が耳に届いた。
――やっぱり、俺はあの時、死んだんじゃなかろうか?
だから元の時代に戻れたとしても、彼の意識は目覚めないまま……墓石の下に眠ることになる。
そんな悪夢への恐れも然ることながら、クルマへ突進する恐怖自体が、次第に彼の心を覆い尽くした。
やがて立っているのも辛くなって、彼は地べたに座り込んでしまうのだ。
――なんでこんなジジイなんだよ! 勘弁、してくれよ……。
それでも生きているだけマシなのか? 心の声が頭のあちこちで響き渡って、達哉は思わず頭抱えて大声を出した。
「クソッ! どうすりゃいいんだよ!」
その時、肩に何かが触れた気がした。
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