第10話 最初の依頼




 冒険者ギルドに入ると、久しぶりに現れた仮冒険者登録をした冒険者ということもあり、昨日よりも多くの視線が俺達に集まった。

 メデルは、小さな体がビクッとなり驚いている。それに気付いたメデルとヴィルヘルムが、冒険者の集団に睨み付けていた。


 だが、俺は特に気にもせずに、依頼が張り出されている掲示板に向かう。


 俺達には、フォンティーヌ商会の長ーーイリーナの後ろ盾がある。その後ろ盾を使えば、正式に冒険者として登録出来るが、今、正式に登録を行っても通常の登録と同様にアイアン級から始まってしまう。それなら、このまま仮冒険者登録の状態で正式に冒険者になった方が良い。

 何故なら、仮冒険者登録からギルドに認められて正式に冒険者になると、実力に見合った白金プラチナ級までの階級で登録をする事が出来るらしい。



「雪、どれにする?」


 一通り目を通したが、やはり傾向として討伐や護衛の依頼が多い。流石に、駆け出しのアイアン級は、城壁近くで採取出来る薬草や城壁内で達成出来る雑用の様な簡単な依頼が多い様だ。

 だが、鉄〜銅級でも魔物が出没し易い危険地帯に接する場所への依頼はある。

 金級以上となると、危険度の高い依頼が多くなっている様に感じた。


「最初の依頼だ、手頃な物の方が良いんじゃないか?」

「私も……できるだけ安全な方が嬉しいです」


 安全、ね。

 果たして、この危険地帯に囲まれたヴァーデン王国に、メデルにとって安全な依頼がどの程度あるのやら。


「……」


 俺は、掲示板に貼られた依頼書を手に取る。それを他の3人が覗き込む。


「何の依頼ですか?」

「どれどれ……忌蟲きちゅうの森の調査?定員 3人以上のパーティ 5組まで?」

「どうやら、森に生息する魔物の繁殖状況などを調査する依頼のようだな」


 ヴィルヘルムの言う通り、これは森に住む魔物を調査をするだけの依頼だ。

 これなら、無理に戦闘をする必要もないので討伐などの依頼よりは安全だろう。


「しかし、調査の依頼にしては報酬が良過ぎる気がするのだが」


 ヴィルヘルムは、掲示板に貼られた他の依頼を確認しながら言った。


「まあ、詳しいことは聞けば分かるだろ」




 という訳で、受付に依頼書を見せて説明を受けた。


「元々、忌蟲きちゅうの森に住む魔物は繁殖力が強く、数年に一度森から溢れ出して、国が被害を受けているのです。その為、国は調査村を忌蟲きちゅうの森に作って監視をしているのですが、限界があります。なので、森内の定期的な調査と間引きの報酬には、国やギルドからも追加報酬が出ているんです」

「なるほど。だから、依頼内容の割に報酬が高いのか」

「はい。では、依頼の方はどうされますか?」

「これを受ける」

「畏まりました。他にも、同じ依頼を受けている冒険者の方々がいますが、報酬は変わりませんので、御安心下さい」


 受付嬢が手際良く依頼の処理をする。


「最近は魔物の動きも活発なので、お気を付けください」


 俺は受付嬢の言葉に適当に頷き、席を立った。それに続いて3人も立ち上がり俺に続いて歩き出す。

 視線を背中に集めたまま冒険者ギルドを出た俺達は、早速行動を開始する。


忌蟲きちゅうの森は、ここから歩いて6時間程と言った所だな」

「治癒のポーションは、雪とメデルがいるから必要ないが、最低限の食料とポーションは買った方が良いな」


 忌蟲きちゅうの森には、その名の通り蟲系の魔物が多い様だ。

 蟲系の魔物は繁殖力や生命力が強く、しかも敵を状態異常にする魔法やスキルを持つ個体が多い。だから、本来は状態異常を治癒できる光属性魔法を使える魔導師やポーションを準備するのが常識だ。


 だが、状態異常を治せる治癒ポーションは高価であり、光属性も希少属性と呼ばれる珍しい属性の魔法だ。その為、状態異常を仕掛けて来る魔物は、お金に余裕がない新人冒険者には鬼門とも言える。


 それ故に、この依頼は金級冒険者以上に指定されているのだろうと予想できる。


 ちなみに、仮冒険者登録をした俺達が受注出来る依頼は白金プラチナ級の依頼までだ。


「なら、食料の買い出しは任せる。俺は、ポーションを買うついでに、イリーナに報告してから合流する」


 俺はそこで3人と別れ、フォンティーヌ商会へと向かった。




□□□□□



 一定の速度で流れる風景を眺めながら、下から打ち上げてくる衝撃に耐える。メデルも俺の隣で、揺れと衝撃に耐えていた。

 偶に呻き声のような声が2つ、馬車の中から聞こえる。

 そんな中、リツェアは馬車の前方で2頭の馬を操るヴィルヘルムに文句を言い始めた。


「ねー、この揺れだけでもどうにかならない?」

「無理を言うな。これでも、気を使っているんだぞ」


 返って来る応えが分かっていたのか、リツェアはそれ以上文句を言おうとはしなかった。


 この馬車は、俺がイリーナに依頼のことを伝える為にフォンティーヌ商会へ向かった際に無理矢理イリーナから押し付けられた物だ。


 何やら、商会の威厳がどうだか、と騒いでいたので大人しく借りておいた。それに、可能なら魔物の素材が欲しいらしい。


 揺れや衝撃はあるが、この馬車を使えば移動時間の短縮になるし、歩く手間が省ける。


 だが、それでも時間はかかるので久しぶりにステータスを確認しておく。




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名前:トウヤ・イチノセ

種族:人間


極限エクストリームスキル

全能なる魔術師オール・デウス・ザーヴェラー

医神の波動アスクレーピオス


固有スキル

『真・魔力支配【覚醒レベル:2】』

『眷属召喚・聖蛇』

『錬金魔法』


耐性スキル

即死無効

隷属無効

精神耐性

痛覚耐性


スキル

全属性魔法 LV:6

混合魔法 LV:4

爆裂魔法LV:3

剣術 LV:6

体術 LV:5

威圧 LV:3

料理 LV:3


称号

『異世界人』『再臨の勇者』『医神の加護』

『法神の寵愛』『単独討伐者』



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耐性スキルと通常のスキルも順調にレベルが上がっているな。


意味は見たままだから、わざわざ詳細を見る必要はないか。


だが、新しい固有スキルと称号の確認はしておく。



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『錬金魔法』

効果

・錬金術を魔法で再現した固有魔法スキル。

・触れた物質の錬成・付与・合成・創作などが可能。

・生物を素材にすることはできない。


『単独討伐者』

効果

・単独で複数の敵に挑む場合、身体能力、取得耐性の効果が上昇。


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 なかなか良いスキルを取得出来ていた。

 『錬金魔法』は、消費魔力が普通の錬金術と違って多いがその分応用が効く。所得しておいて損は絶対にない固有スキルだ。

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