IFな物語 信仰と遊戯
私の名前は、メデューサ・デル・カーリス・シールバー。アスレティア様や家族、他の聖蛇様方、最近では主にもメデルと呼ばれています。
産まれてまだ10年しか経っておらず、他の聖蛇の皆様は若くても100年という長い時を生きています。
私の10倍です!10倍!!
つまり、私より少なくても10倍は強いんです!
……いや、その、戦った事はないんですけどね……アハハハハ。
まぁ、兎に角、私は未熟と呼ぶにも烏滸がましい程に弱い自覚があるので、毎日トレーニングを続けていたのです。
そんなおり、私は召喚されました。
召喚とは、聖蛇に問わず聖獣の方々にとって、とても特別な事なのです。長い聖獣の歴史の中でも、人に召喚される事など数える程しか文献に残されていません。
不思議な光に突然包まれ、気がつくと目の前に黒髪黒目で色白の少年が椅子に座り私を見下ろしていました。
混乱はあったものの、事前にアスレティア様から聖蛇の中から近々下界に召喚される事の説明を受けていたので、そこまで慌てる事はありませんでした。
幼くても頭の回転は悪くないのです!
……まぁ、これしか誇れるものが無いだけなんですけどね。そして、自分の主になる事が既に決定している少年に向かって自己紹介をしたのですが、直ぐに自分が期待外れの未熟者である事を思い出し謝罪しました。
でも、少年は特に気にした様子もなく、契約は無事終了しました。その時の私の感想は、何か弱そうだな、である。
だって、聖蛇の中で1番弱い私を召喚するし、契約をしても少年から特別凄い魔力は感じなかったんです。
ですが、契約してしまったものはしょうがないと考えを切り替え、直ぐにアスレティア様へ報告に向かいました。
天界に戻ると丁度、アスレティア様とお母様が話をしていたので直ぐにそちらに向かいました。
お母様の見た目は、小さく弱々しい見た目の私とは違い、大きく逞しい胴体に光を浴びキラキラと輝いている白い大蛇です。もちろん、人型になる事も出来ます。そして何と言っても強い。
お母様は私の憧れです!そして、お母様の目の前にいる一見幼い少女の様に見える方が、私たちの神であるアスレティア様です。
アスレティア様はとてもお優しく、聖蛇の長である、お母様と仲が良く、良く他愛もない話しをしているのを見ます。
2人の話を邪魔をするのはマズイかなと思った私でしたが、アスレティア様が私の事に気付いて下さったので早速召喚され人間と契約した事を報告した。
アスレティア様は報告を嬉しそうに聞かれていた。
私は思わずホッとしました。
アスレティア様は、今回の聖蛇の中から下界に召喚される事を楽しみにしていた様子だったので、私何かが召喚されて怒られるんじゃないかと正直ビクビクしていました。
そこで、アスレティア様が他人の心を読める事を思い出し恥ずかしくなった。
「アハハハハ!別に誰が召喚されても怒らないよ?寧ろ、メデルならとー君をしっかりサポートしてくれそうだから安心だねー」
「とーくん?」
「あれれー?名前聞かなかったのー?」
そういえば、一方的に私ばかり話していた。
な、何てことだー!
「大丈夫だよー、とー君は優しいから!」
アスレティア様は私の契約した主と知り合いの様で、とても気に入っている様子だ。
「うん、大好きだよー!あっ……メデル、とー君を誘惑しちゃ、めっ!だよ」
「し、しませんよ!」
「あらあら、メデル照れてるの?」
「お母様までー!あっ!皆もそんな温かい目で見ないでよ!」
集まって来ていた家族が、何やらニヤニヤと私を見て笑う。
「まっ!冗談はここまでにしよっか」
アスレティア様が小さな手を叩きパチンッと綺麗な音を出した。
「それで、メデルはとー君の事をどう感じた?」
私はそう聞かれ、心を読む神様に嘘を付く事など出来る筈もなく、正直に感じたことを応えた。
「そっかそっか。メデルもまだまだみたいだねー。何も分かってない」
私がまだまだなのは知っています。
でも、アスレティア様の雰囲気が少し変わった様に感じます。
も、もしかして、不機嫌になりました?!
「アスレティア様。メデルが契約した人間とは、何者なのでしょう?」
お母様の問いに家族全員……、あれ家族以外の聖蛇の皆様も集まって来てる。いつの間に。
……兎に角、この場の全員が耳を傾けている。
アスレティア様もいつに無く真剣な表情をしている様に見える。
「メデルが契約した少年の名前は、一乃瀬凍夜。かつて、《神導の勇者》と呼ばれた異世界人だよ」
その言葉にこの場にいた全員が、「え?マジですか?」って反応していた。
あれー、皆様知っているんですか?
私は名前すら聞いた事がないんですけど。
勉強はしているつもり何ですけどね。
「あれれ、もしかして、メデルは知らない?」
アスレティア様の問いに頷く。
「……はい」
私がそう応えた瞬間、皆様が先程とは違う意味で、「え?マジですか?」って反応をしている。そして、家族は開いた口が塞がらない状態に陥り、周りの聖蛇様方は家族をチラ見、そして次々に喋り出した。
「め、メデル、あのトウヤ・イチノセを知らないの!?」
「はい、知りません」
「下界の人間の中じゃ、特に有名なんだぞ!」
「下界の歴史は勉強していませんでした。そんなに凄い人なんですか?」
「凄い何てもんじゃないわよ!」
「そ、そうなんですか……」
「あの大罪の魔王達との激戦の映像なんて何度見ても興奮するぞ!」
「なっ!?ジジイあの激闘を記録したレア物のメモリークリスタル持ってんのか!」
「良いなー、私なんて雷の獣王の戦いと秘密結社掃討戦の低画質のメモリークリスタルしか持ってないのに!」
「ねぇちゃんぅぅうう!それもレア物だよ!」
「壊さないから、貸してくれ!」
「「断じて断る!!」」
「へぇー、凄いんですね(棒読み)」
「「「「「だから、全然分かってない!!!」」」」」
(ふぇぇぇええええ!!?)
もう何が何だか分からないよー!!
1人だけ話しの流れに乗れず、ションボリしているとお母様が側に寄り添ってくれた。
あー、やっぱりお母様は私の救世主です!
「アスレティア様、私にお任せ下さい」
ん?何をですか、お母様?
「メデルをイチノセ様の従者として恥ずかしくない、立派な一乃瀬ファンにしてみせます!」
しちゃうんですね!そこは確定事項なんですね!!ていうか、—乃瀬ファンて何!?
「うん、お願いねー。私もメデルの為にスキルと服を用意しておくから」
ん?何だか悪寒が……。
「……えっと、私、訓練に…」
「いいえ。メデルは私、一乃瀬ファンNo.003と一緒に楽しいお話しをしましょう」
「まずは、トウヤさんの活躍と苦悩に関する歴史。次に、私が保管するメモリークリスタルを鑑賞会を一連の流れで行いましょう」
「待ちなさい!」
美蛇に捕まった私を助けようと割り込んで来たのは、太く長く逞しい胴体を持った聖蛇。
お、お父様!
いつも、お母様に叱られてシュンとなっている姿が嘘の様に、今日のお父様は凛々しく自信に満ちている。
「急にトウヤさんの活躍や戦闘シーンを見せては、メデルが困惑してしまうだろ?」
あれ……。
「まず行うのは、トウヤさんが召喚されるまでに至る経緯の説明が最優先だ。そして、メモリークリスタルの中でも少ない仲間とのエピソードを畏れ多いが、我々が語る事で、メデルの理解も深まる筈だ!」
私が思ってたのと、なんか違う!
「貴方……その通りね。流石は、—乃瀬ファンを名乗る私の夫。では、メデル…」
お、お母様の目がマジです!だから、一乃瀬ファンってなんですか!?
「早速、始めましょう」
あぁあ!一体何が始まるのでしょうか!?
その後、私はお母様と一乃瀬凍夜様の事に付いて一方的に語り聞かせれ、メモリークリスタルの鑑賞会が始まった。
ただし、救いだったのが、メモリークリスタルとは繊細な鉱物である為、連続した鑑賞に制限があった事です。
ですが、途中から一乃瀬ファンを名乗る方々が乱入し、下界の様子を映像として記録できる希少鉱物であるメモリークリスタルに録画されている映像を見せられながら、延々と話しを聞かされた。
最早これは、洗脳と呼ばれる類のものではないのだろうか。
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