第4話 流れ


 

 エスティファム聖国。

 大陸の北西にある大国で、世界の全てを創ったとされる創造神を信仰する創神教の総本山である。

 身分などの違いはあるものの治安が良く、教育は身分に関係なく誰にでも平等に受ける権利がある国だ。

 100年前に旅の途中何度か立ち寄った事があるが、この世界の中で最も恵まれている国と言っても過言ではないと当時の俺は感じていた。


 しかし、俺は聖国の人たちが苦手だった。


 その理由は、国教である創神教の教えにある。

 創神教では、人間は創造神によって最も早く創られた事から〝始まりの種族〟と呼ばれ、最も優れた種族だと信じられている。それ以外の獣人や魔族などの他種族は、人の道から堕落し、穢れた種族だと幼い頃から教え込まれていた。それ故に、聖国の騎士たち他種族に慈悲や情はない。

 特に、騎士の上位者になればなるほどその傾向が顕著だ。老人や女性、子供であっても他種族なら一切の躊躇なく殺す。そんな考えの極端な奴ばかりと言うか、異常者と感じる者達が多かった。


 勇者だった頃の俺は人間だろうと他種族だろうと敵でなければ殺さなかったし、差別もしなかった。その所為で、聖王国とはそりが合わず何度も衝突した。


 それだけではない。


 俺を 『魔に堕ちた人ーー〈魔人〉』と呼び、不評を流したりもしていた。


 ……今考えれば、俺が消えて最も得をするのは聖王国なのだ。


 もしも正体がバレた場合、俺の命の保証はないかもしれない。


 この国からは早目に離れた方が良いな……。





 俺は3年前、異世界ルーファスでは、100年程前の事を当てがわれた自室のベッドに腰掛けながら思い出し、考えていた。


 ここで部屋の内装を確認しておく。

 まず初めに、俺が腰掛けている1人用の高級そうなベッドがあり、その近くには机と椅子がある。


 机に置いてあるのはランプと水差し、それとコップか。ランプにはボタンがついていて、それを押すと淡い光を放ち出した。

 おそらくこの魔道具には、魔物やダンジョンから採取出来る魔石を使用しているのだろう。


 魔石とは、長い時間をかけて固まった魔力の結晶の事を言う。大きさや純度などで、価値が全く違う。地球で言う、宝石みたいな物だ。


 この世界には、日本の様に電気を使うといった発想や技術はない。


 しかし、だからと言って遅れている訳ではなく、魔力を使う事で独自の進化を遂げている。

 但し、俺の一般常識は100年前の物なので、どこまで当てになるか分からない。


 そう思いながらランプを消し、次は部屋の端にある怪しげな扉を見つけた。開けてみると、そこは少し広さのある子部屋でトイレと洗面台、それと上半身が見えるくらいの鏡があった。


 流石に、シャワーがあってもお風呂はないか。


 恐らく共有の大浴場の様な場所が、城のどこかにあるのだろう。

 俺はきっとそうだと信じながら、早速トイレを確認してみると、それは日本の洋式便器と似ており、レバーを捻ると水が流れた。


 異世界なのに水洗トイレがあるのか。

 まぁ、助かるからいいんだけど。

 ちなみに100年前にはなかった設備だ。


 洗面台の蛇口を捻ってみれば、常に一定の量の綺麗な水が出た。


 これも100年前にはなかった。



 俺は技術の進歩に少し感動しつつ部屋に戻り、水差しから透き通った綺麗な水をコップに注ぎ一口飲む。


 ……普通の水だな。


 別に味が上手いか不味いかを調べた訳ではない。もしも聖王国が、俺達を裏切れなくする為に、この水の中に地球で言う所の麻薬や魔法でも込めているんじゃないかと思ったが、特に何の変哲もない唯の水だった。


 考えすぎか……いや、用心して困る事はない。


 コップを机に置き、先程確認し終わった称号を思い出す。




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『異世界人』

 効果

 ・ルーファスの言語を理解し、話せるようになる。また文字の読み書きも可能になる。

 ・アイテムボックスを使用できるようになる。

 ・アイテムボックスに入れた物は時間が止まる。ただし生き物、人の所有物を入れることはできない。

 ・アイテムボックスの容量は魔力量で変わり、出し入れする場合は魔力を多少使う。



『再臨の勇者』

 効果

 ・隷属と即死が無効。

 ・身体能力が向上し、状態異常になりにくくなる。

 ・[聖剣]の使用が可能になる。



『医神の加護』

 効果

 ・治癒の効果が上がる。

 ・耐性を取得する確率が上昇する。

 ・『眷属召喚【聖蛇】』を取得する。

 ・召喚出来る蛇の数は、使用者の力量によって変わる。



『法神の寵愛』

 効果

 ・実力やステータス、魔力を偽装する事が出来る。

 ・看破するには〝神〟の名を持つスキル又は称号が必要である。

 ・全てのスキルの取得適正を得る

 ・寿命が延びる。


=========



 ……スキルといい、称号といい、チートばっかりだよな。まぁ、この世界で強くて困る事はない。


「でも、油断は出来ない。行動を起こすなら慎重にすべきだ」


 俺は、自分に言い聞かせるように呟いた。


 今後の行動について考えていると、頭の中に無機質な声が響いた。


 《ステータスが更新されました。》


 《『真・魔力支配【覚醒レベル:1】』が一乃瀬凍夜の身体と魂への適合を確認。スキル『全属性魔法』を取得しました。》


 その声を聞いた俺は、ステータスを開いた。



 ーーーーーーー



 名前 トウヤ・イチノセ

 種族人間


 極限エクストリームスキル

全能なる魔術師オール・デウス・ザーヴェラー

医神の波動アスクレーピオス


 固有スキル

『真・魔力支配【覚醒レベル:1】』

[+全属性魔法]

『眷属召喚 聖蛇』


 耐性スキル

 即死無効

 隷属無効


 スキル

 全属性魔法 LV1


 称号

『異世界人』『再臨の勇者』『医神の加護』

『法神の寵愛』



 ーーーーーーー


 いきなりスキルが増えたな。

 まずは簡単なスキルから確認していくか。



=========


 即死無効

 効果

 ・即死系統の魔法、スキルを無効化する。


 隷属無効

 効果

 ・隷属系統の魔法、スキルを無効化する。


 全属性魔法

 効果

 ・火・水・風・土・光・闇の属性の魔法が使用できる。


=========



 ここまで3つは名前の通りだが、実はこの3つも相当チートだ。


 無効とは、効かないと言う事だ。

 つまり、これらの能力を主軸にして戦う敵に負ける事はほぼ無い。

 次に全属性魔法だが、異世界ルーファスで全属性を使用出来る奴なんて滅多にいない。

 基本は、自分に適正のある属性を含めた6属性の中から、2〜3種類の属性魔法が使えたら優秀だと言われている。


 さて、次は新しく手に入れた固有スキルを見てるか。

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