第3話 力の真偽

 

 話し合いが終わった後、魔王級のバカ男である澤輝天明の所為で魔力適正テストを行う所だ。

 魔力適正テストと言っても、赤い布のかかった台の上に置かれている水晶玉に触れるだけの簡単なものだ。

 あの水晶玉は、触れた者の現時点での魔力量を調べるだけの魔法道具だ。魔力量が多いほど、水晶玉の放つ光が強くなり、その中に色の付いた光が混ざる。


 しかし、この世界にはレベル、スキル、称号があるので参考程度にしかならないが、潜在能力の高さは充分に分かる。


 魔力がない物は無色ー反応なし。そこから黄、赤、紫、青、黒、白の光を放つと言うことらしい。そして、それを具体的に分かりやく纏めるとこんな感じだろうな。



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 無 → 無能・ある意味で才能あり

 黄 → 一般的

 赤 → 優秀

 紫 → 天才

 青 → 宮廷魔導師級

 黒 → 英雄級

 白 → 魔王級


=========



 100年前の知識と俺の経験上の実体験を含めたものだから、そこまで現代の基準とも離れていないと思う。

 それ以外の説明は、ステータスを確認しながら適当に聞いていた。それにより、確認していなかった称号もなかなか興味深い能力を持っている事が分かった。


「その水晶は、触れた者の魔力量を調べることが出来る。そして、お前たちの取得した固有スキルを教えて欲しい。いないとは思うが、嘘をつけば自らの立場を追い詰める事になるぞ」


 王に釘を刺され、ビクッとしている連中が視界の端に数人見えた。


 諦めの悪い連中だ。どんだけ弱い固有スキル何だよ。


 だが、俺には関係無いので、直ぐに視線をステータスへと戻した。


 しかし、先ほどから青や紫色の光がチラチラと視線に入り、その度にクラスメイトの歓声が聞こえる。

 その後の固有スキルで場が失笑に包まれる事も何度かあったが、30人もの人間が召喚されているのだから固有スキルの強弱はしょうがない事だ。


 その時、前方の方で悲鳴なのか歓声なのか分からない声が聞こえて来た。


 気になって顔を上げてそちらを見てみれば、澤輝が水晶玉に触れていた。


 水晶玉は黒色の光を放っている。


 おいおい、いきなり英雄級の魔力量かよ。


 ……と言うことは、


「僕の固有スキルは『聖なる剣』です。称号にも、『勇者の欠片』があります」


 やっぱりか。


 どうやら澤輝には勇者としての素質があるようだ。


 だが、素質は所詮素質であって、勇者ではない。


「素晴らしい!黒色の魔力量に勇者としての素質まで備えているとは!ああ 神よ!感謝します!!」


 前の方でテストを受けていた澤輝に、シャルティアが飛び跳ねて喜び、その後、神に向かって祈りを捧げていた。


 どうやら、あの王女は頭の中がお花畑の様だな。


 それより澤輝だが……。

 元々、異世界召喚で召喚されたのだから才能があって当然だが、いきなり黒色の光を放つ英雄級とはチート過ぎて笑えるな。


 普通なら多くの経験を積み重ねて、上り詰める筈の領域だ。


 そうこうしている間に俺以外の全員の魔力適正テストが終わったようだ。


 沢輝以外にも、意外や意外。

 あの屑野郎こと、海堂の奴も魔力量が黒色の英雄級だった。

 流石に、勇者の素質は持っていなかったが、固有スキル『復讐の狂戦士モルドレッド』と言う受けたダメージに応じて攻撃力と敏捷力が上昇する、戦闘特化型の強力なスキルを持っていた。

 破壊力だけみれば、海堂がクラスNo. 1だろう。


 他の連中も固有スキルは別として、魔力量だけなら最低でも紫色なんてどんな集団だ。……頭可笑しいだろ。


 しかし、勇者召喚で最も重要なのは魔力量ではない。異世界人が必ず宿す固有スキルだ。

 確かに、この世界の人間も固有スキルを宿すが、その殆どが普通のスキルに毛が生えた程度の弱いものなのだ。それに比べ、召喚された異世界人の固有スキルは強力なものが多い。


 つまり魔力量が多い=強者、ではない。


 黒色の魔力量で弱い固有スキルの人間よりも、紫色で強力な固有スキルを持っている者の方が国としては重要となる。

 勿論、この魔力量を調べる事も今後の期待度を調べる上では必要な事だ。


 魔力が多くて困る事はないからな。


「おい、残りはお前だけだ。早くしろ」


 魔導師の爺さんに言われ、俺は水晶玉に手を置く。


 放つ光の色は、赤。

 この世界の平民からすれば、充分な結果だが、他のクラスメイトと比べるとどうしても霞んでしまう。


 事実、目の前の魔導師の爺さんや騎士たちの瞳には落胆の色が見える。後ろでも、クラスの連中が俺を嘲笑っているのが聞こえる。


「俺の固有スキルは、『治癒の微光』です。称号は『異世界人』のみです」


 俺の持つ固有スキルは目立つし、まさか極限エクストリームスキルをそのまま言う訳にもいかないので、『医神の波動アスクレーピオス』をそれっぽく言って見た。


「魔力量が赤で、回復系のスキルですか。今後が楽しみですね」


 そんなフォローをシャルティアが行ったが、1度生まれてしまったこの空気はどうにもならないようだ。

 王の間にいる者は、俺を見下し、蔑み、嘲笑い、中傷する。


「何だよ、あいつ役立たずじゃねぇか」

「ダッサー」

「はぁー、どうしてあんな奴が俺たちと一緒に召喚されてんだよ」

「私たちの品位が疑われちゃーう」

「ギャハハハ!よえー!魔力は少ねぇし、弱そうなスキルだな」

「あいつ直ぐ死ぬんじゃね?」

「別に良いだろ。無能の1人くらい」


 予定通りだが、予想以上の反応だな。


 その時、魔導師たちが何やら騒いでいるようだ。

 どうやら、魔力を測る水晶に罅が入り割れてしまったようだ。


「……」

「ふむ。これは一体どういう事だ?」


 王が魔導師の爺さんに問う。


「おそらく、高魔力の勇者様方の測定を続けて行った為かと……」


 ……当たらずといえども遠からず、だな。


 爺さんの説明に「なるほど」と王が頷く。


「では、これにてこの場は解散とする。皆の者、本日はご苦労であった。勇者たちも部屋を用意したので、そちらで体を休めると良い」


 そう言うなり、王と護衛の騎士たちは部屋から出て行き、魔導師たちも割れた水晶を持って忙しそうに部屋から出て行った。


「では、使用人の所までお送り致します。どうぞこちらへ」


 ぞろぞろとシャルティアの後に続いて王の間を出て行くクラスメイト。

 誰も自分を見ていない事を確認して、俺は足下に転がっていた水晶の欠片を拾い上げる。


 水晶は先程と同じ赤い光を放つ。


 それを確認し、俺は自分にかけていた偽装を解く。


 その瞬間、水晶はまるで別人が触れたかの眩い光を放った。色は白。見る者によっては、銀色にすら見える程に眩く混ざりっけのない純白の光を放っていた。そして、突如水晶の欠片は粉々に砕け散った。

 水晶が割れた理由は、俺の魔力量に耐えきれなかったからだ。


「……」


 結果を確認した俺は、再度偽装をかけ直し、クラスの連中を追い王の間を出て行った。

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