第2話 茶番
「儂の名は、ロイド・エール・リム・エスティファム。この国で、聖王の座に就いている。この者は、宰相のフィリップだ。少々頭が硬いが、優秀な男だ」
全員が跪くのを確認した王が、自分と隣に佇む男性を紹介した。
「さて、時間もあまりない事だ。早速、本題に入ろう。勇者たちよ、どうか、この世界を救ってはくれないか」
王様なのだから、もっと具体的に言って欲しい所だ。今の言葉では、世界の現状や今後の行動が全く予想出来ない。
「あ、あの……」
澤輝が手を上げおずおずと王に話しかける。
「貴様!誰が発言を…」
「良い。発言を許可しよう」
「はい。世界を救うとは、具体的にはどうしたらよろしいのですか?」
こんな状況でも、澤輝は冷静な判断が出来ている様だ。
「この世界は、ルーファスと呼ばれ、人間以外の他種族とその王が存在する。勇者たちには、他種族の王を倒して欲しい。無論、全てではない。有力な王を倒して欲しいのだ」
俺の経験上、有力とは人間では手に負えない化け物で間違いない。それを、力だけ持たされた子供に実行しろ、と言うのは、相変わらず酷な話だ。
例えるなら、戦国時代の戦の中で、斬れ味が凄く良い刀を子供に渡して、敵の将軍の首を取って来い!と言っているのと変わらない。
「それって魔王?」
クラスの誰かが独り言のつもりで呟いたのだろうが、思った以上に声が大きかった様で部屋にいた全員に聞こえた。
宰相がすっげーこっち睨んでんだけど。
喋った奴は正直に手を上げろ。宰相は絶対怒るだろうけど。
「その通りだ。だが、魔王と言っても1人ではなく複数人いる。それぞれが強力な力を持ち、我々の平和を脅かしている。その恐怖に耐えかね、自らを護る為に他種族と同盟を結ぶ国も少ないが存在する」
「魔王以外にも、獣王と呼ばれる獣人族の王もいる。野蛮な獣だが、身体能力が高く我々だけでは駆逐しきれていない」
王の言葉に宰相が補整を加えた。
「戦ってくれる対価はもちろん用意しよう。戦いに勝利すれば、送還魔法で元の世界に帰る事だって出来る」
「王様本当ですか!」
「やったー!私たち帰れる!」
「俺のチート能力で魔王なんかぶっ倒してやる!」
「始まる、これからは俺も主人公だ!」
「待ってろよ!異世界美女たちぃぃぃいい!!」
クラスメイトは、未来への希望が見えた事からか明るさを取り戻した様だ。
しかし、相変わらず後半はこの状況を楽しんでるだろう。
てか、良い加減こいつらの言っている矛盾に気付け。
何故、正義面して、問答無用で俺たちを異世界に拉致した連中の為に命懸けで戦う必要があるんだ?しかも、その対価が異世界に帰す事だ?寝言だとしても笑えないだろ。
「しかし、我々が行える送還魔法は完璧では無いのだ。失敗すれば、送還魔法に身体が耐えられず消滅してしまう」
王の言葉を聞いた瞬間、盛り上がっていたクラスメイトの声がピタリと止んだ。
「しかし、魔王や獣王を倒す事で得られる称号があればその心配はない。確実に、元の世界に帰る事が出来ると言い伝えられている」
……嘘だな。
確かに、魔王や獣王を倒すと称号を取得出来るが、それは王を倒した証だ。それ以上でも以下でもない。だから、無事に帰れる保証何て何処にもない筈だ。
実際に100年前の送還の時だって……っ。
「……っ」
送還の時を思い出そうとした所、ノイズと体が若干ふらつく程度の眩暈が同時に襲って来た。そして、何も思い出す事が出来なかった。
まるで、ジクソーパズルをしていて一箇所だけ空白になっている様な違和感を感じる。
どうしてだ?
今までこんなこと……いや、今まで厳密に送還魔法に付いて思い出そうとしたこと何てなかったな。
もうこの世界に来る事はないと思っていたし、何故か、忘れなければいけないと思い込んでいた気もする。
俺が1人で感慨に浸っている間に、話しが纏まったようだ。
「お前たちにも帰りを待つ家族や仲の良い友人がいるだろうが、どうかこの世界を救う為、力を貸して欲しい!我々も傍観者でいるつもりはない。出来る限りの事をすると神に誓おう!」
ここは直ぐに答えを出さず、1度よく考えるべきだな。
「話しは分かりました。僕たちも協力させて頂きます!」
……澤輝は、魔王級のバカなのか?
俺の視線の先には、王の間にいる全員の視線を集めるイケメン少年の澤輝天明が、お得意のイケメンスマイルを浮かべ王に宣言していた。そして、クルリとクラスメイトの方を向くと話し出した。
無駄にかっこいいのが、更にむかつく。
「僕たちは選ばれたんだ!そして、女神様から力を得た!僕たちは強い。だからこそ、この力を異世界の人々の為に、使おうじゃないか!!」
天明の話しを聞いてクラス全体が盛り上がる。
もうこれはこれで一枚の絵になりそうな光景だ。
その様子に感極まったのか、シャルティアが涙ぐんでいる。
「み、皆さん、ありがとうございます!」
シャルティアは俺たちに向けて頭を下げた。
「感謝するぞ、勇者たちよ」
どうやら、茶番はこれで終わりのようだ。
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