第3話 2人の女神
「……何のつもりだ?」
既に、体は自由を取り戻している。体のどこにも異常はない。
寧ろ、スキルを得た事で調子が良いくらいだ。
『あなたに興味があるので、残って頂きました。』
俺は、水晶玉の言葉を聞き思わず細めていた目を見開いた。
この手で話を進める輩は、面倒な奴か、油断ならない奴かのどちらかの場合が多い。
『一乃瀬凍夜君。いえ、〈神導の勇者〉と呼びましょうか?』
俺はかつての二つ名を聞き顔を顰める。
二度と聞く事はないと思っていた、勇者の名。何より、自分からその忌まわしいとさえ思う名を名乗った事はない。
「……凍夜で頼む」
『分かりました。私は女神テルミュースと申します。』
「2度目でやっと名前を聞けたな」
『ウフフ、誇って良いですよ。』
クラスの連中がいた時とは別人の様に、言葉には感情が込められ、声が女性のものであるとはっきり分かった。
こんな状況でなければ聞き入ってしまう様な美声だった。
「そうさせて貰うよ。……で、俺に何のようだ?」
『それは…』
俺がそう水晶玉に問うた時、背後に光の柱が立ち上がり、純白の白衣を纏った幼女が現れた。
『なぁ!?アスクレティア!貴方何をして…』
水晶玉が叫び終わるより前に、幼女の姿をしたアスレティアが俺の腕に抱きつく。警戒はしていた筈なのに、気付いた時には俺の腕にしがみ付いていた。
咄嗟に振り払おうとするが、寧ろ、面白がっている。
「うわー!生勇者だー!」
困惑する俺。
『アスクレティア!今すぐ凍夜君から離れなさい!』
「いーやー!!」
『神たる者が人間にベタベタとっ!』
「えー、とー君には私の力を上げたんだからこれくらい良いじゃーん」
……そういえば、
あれは、この幼女の神様のおかげだったのか。
っていうか、とー君って.....。凍夜、だからか。
俺が何とか
まるで、美の化身のような姿をしており、それでいて人外の圧力を感じさせる神々しさを纏っている。
「レティ!良い加減にしないと怒るわよ!」
「もう怒ってるじゃーん!」
そう言うなり、俺の背後に隠れるアスレティアと呼ばれたおそらく女神。そして、それを睨み付けるテルミュース。
「……なぁ、喧嘩なら他所でやってくれないか?」
俺の言葉を聞いたテルミュースは、「ゴホンッ」と一度咳払いをする。
「失礼しました。一乃瀬凍夜」
「あーれー?さっきは凍夜君って呼んでなかった?」
「そ、それは....」
「神様が人間とそんな親しげに話し何かして良いのかなー?」
先ほどのテルミュース自身の言葉を使い、更に畳み掛けるアスレティア。
「うぅぅ、あれは、その……」
テルミュースは頬を赤く染め、チラチラと俺の方を見て来る。その様子を、アスレティアが楽しそうに笑っていた。
話が進みそうにないので、今度は俺が咳払いをする。
「話しを続ける前に、この幼女(?)も女神なのか?」
「彼女は、血と医療の神 アスレティア。私の妹に当たります」
あらためてアスレティアの見た目を見ると、肩の辺りで綺麗に切られた桃色の髪に、神秘的な光を宿すサファイアのような瞳。そして、キッチリ身長に合わせて作られた小さめの白衣には、所々にリボンなどの装飾が付いていてアスレティアに不思議と似合っている。
しかし、テルミュースのような神々しさは感じない。どちらかと言うと、神秘的な雰囲気だ。
「あはははは!よろしくねー!」
アスレティアは本当の子供のような笑顔を見せる。
しかし、神と言う事は中身は俺の何百倍の歳をとったロリ婆なのだろう。
「ぶぅー、外れてないけど女神様に失礼だよー」
ぷくーっと頬を膨らませて俺に抗議してくるアスレティア。
「レティは、人の心を読む事が出来ます」
そういうことは早く言って欲しい。
「遅くなってしまいましたが、話の続きをしましょう」
やっと本題に入れるようだ。
「‥‥そうしてくれ」
既に、大分疲れた気がする。
「一つだけ質問があります。異世界に戻ったあなたは何をするつもりなんですか?」
俺は質問を問いかけたテルミュースから視線を外して考える。
「……何もしないよ」
「何も、しない?」
テルミュースは心底不思議そうな声を出した。
「もうあの世界に関わるのは懲り懲りなんだ」
これは、本心だ。
復讐を望む意思も無いわけではないが、殺せば満足する、という感情の様には思えない。
「えー、とー君を裏切った奴らに復讐しないの?多分生きてる奴いるよ」
見た目は愛らしい幼女だが、随分と過激な言葉を使うもんだな。
「地球に戻った当初なら彼奴らに復讐したいと思ったけど、今思えば良い勉強になったよ」
彼奴らには、他人がどれだけ信じられない存在かを嫌って程教えて貰った。
だが、実際に出会ったらどうなるか、今の俺にも想像出来ない。
「あははは、期待してるね~」
「俺も聞きたい事があるんだが良いか?」
「構いませんよ」
「良いよー、何でも聞いて」
「前に俺の取得していたスキルはどうなるんだ?」
「殆どのスキルは、固有スキルも含めて送還の際に消滅してしまいました。しかし、一部の魔法系スキルは、凍夜君の固有スキル『真・魔力支配』の【覚醒レベル】の上昇と共に再取得する事が出来ますよ。上限はレベル5です」
やはりスキルの再取得には、【覚醒レベル】のレベルアップが必要なのか。そして、少なくても5つの魔法が取得出来る訳だ。
…………ってか。
「……何で知ってんだよ」
「あー!テルー勝手に、とー君のステータス見たー。だーめなんだ、だめなんだ」
「フフフ、神様の特権よ」
笑ったテルミュースの顔は、それは美しく美の象徴のようにも見えた。
「はぁー」
俺は、その言葉を聞き溜め息を吐き出すのを堪えきれなかった。
魔法系のスキルが再所得出来るだけでも幸運なのだろうが、長い旅の中で何度も俺を助けてくれたスキル達を失ったのはどうにも納得出来ない。
「あれ?そんなに嫌だった?」
「違うよー。大事にしてたスキルが無くなって、ショックなだけだよ」
……ま、無い物はしょうがないか。
「あ、立ち直った」
「随分と早いわね」
俺は気持ちを切り替えてテルミュースを見る。
「聞きたい事は以上ですか?……と言いたい所ですが時間があまりないので、勝手に説明させて貰います。異世界ルーファスは、凍夜君が送還されてから100年が経過しています」
100年か、俺が送還されてから随分と経っているんだな。
「さらに、凍夜君の神器は、既に貴方と中にあります。力は失っていますが、直に取り戻すとは思いますが……」
テルミュースは俺の聞きたかった事を次々と答えていき、俺は兎に角聞く事に徹していた。
流石は女神だな……。
「テルーさっすが!」
「レティ、少し黙ってなさい。それで、他に質問は?」
「何故そんなに急いでいるんだ?」
「あんまり他の人と離れると、時間軸の調整が難しくなってしまうのよ」
「女神なんだろ」
「私は、秩序と判定の女神。法神とも呼ばれているわ。時間や空間は別の神が司っているのよ」
神もいろいろあるんだな。
「そういう訳だから、早速凍夜君も異世界に送るわね」
「はぁー、もう時間?」
アスレティアは俺の手を握り、「つまんなーい」と言いながらグルグル回っている。昔は子供と遊ぶ事が好きだった筈だが、今は、何とも複雑な気持ちだ。
「レティ」
「うん」
アスレティアは、
すると、いつの間にかテルミュースが目の前まで迫っており、俺が身構えるより早く優しい抱擁と口づけをされた。
重なっていた女神の唇が俺から離れると、俺の足下から光の柱が立ち上がった。俺の体は、無重力空間に投げ出されたかの様な浮遊感に包まれる。
俺の体は浮き上がり、テルミュースとアスレティアが下から手を振っているのが見えた。
「御機嫌よう。勇敢で愛しい、私の勇者」
「またねー、とー君。元気でねー」
テルミュースとアスレティアの声が聞こえるのと同時に、まるで誰かに抱擁されている様な温もりを感じながら俺の意識は光の柱の中に消えた。
《称号『法神の寵愛』を取得しました》
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