08話.[朝ご飯を作るわ]
「寒いな」
「そうね」
意味もなくあのふたりが寝てから外に出てきた。
なので、実はもう午前一時ぐらいになっていると。
正直に言おう、眠いし寒いしでやばい。
明日は普通に学校だからこれ以上夜ふかしすると間違いなく眠る羽目になるから気をつけなければならない――と分かっていながらも俺らはこうして外に出てきていると。
「由姫乃、いいのか?」
「私にその気がないならあなたの手に触れながらあんなことは言わないでしょう?」
そりゃあそうだな、相手が好きでもないのに手になんか触れつつ言う必要ないしな。
「自惚れかもしれないけどさ、告白とかを全て断っていたのもつまりそういうことなのか?」
「そうよ」
一時期は自惚れたことがある。
散々告白してきた人間を振りながらも俺のところに来ようとするし、相手をしなかったりするとすぐに拗ねていたからその気があるんじゃないかってそんな風に考えたことがな。
でも、それ以上踏み込んできたりはしてこなかったからそういう考えも消えてあくまで友達として過ごしてきたわけだが。
「俺でいいなら」
「あなただからいいのよ」
もう申し訳無さとか全くなかった。
喜びと少しの不安が混ざっている。
取られないようにというか、楽しませられるのかということ。
「ん」
「え?」
「んっ」
ああ、なるほどそういうことか。
けどよ、レベル一の人間にいきなり求めるとかおかしい。
しかもいま関係が変わったばかりだぞ、そこまで焦る必要はないんじゃないかって思うが。
いやでもここで拒むとやっぱり別れるとか言い出しかねない、拗ねると普段全く言わないことを吐き始めるから勇気を出すか。
「するぞ」
「うん」
顔を近づけてもう少しで口につく、というところで、
「はっくしゅっ、うぅ、寒いわね」
……顔に全体的に飛沫がかかり少し萎えた。
「あ、ごめんっ」
「いや……帰って寝よう」
「そ、そうね」
まあ俺がやらかしてしまったわけではないからいいだろう。
長戸家に戻ったら顔を洗って客間に戻る――前にがっかりしたような感じの由姫乃の頭を撫でておいた。
「また明日な」
「あ、うん、ありがとう」
「おう、おやすみ」
焦る必要はない、今日はこうなれただけで十分だ。
「おかえり」
「あ、すみません」
「いいんだよ、告白したんでしょ?」
「はい、されたと言う方が正しいですけど」
「おめでとう」
礼を言って寝っ転がる。
先程まで外にいたのもあって天井などもはっきり見えていた。
眠くなくてなんとなくそれを見ていたら先輩がこっちに近づいてきてそちらに意識を向ける。
「僕はまだ長戸さんが好きだよ」
「はい」
「だけどこれ以上は迷惑になっちゃうから頑張って捨てる」
「はい」
実際、先輩が振り向かせられるチャンスは何度でもあった。
残念だった点は由姫乃が全てそのチャンスのときに俺を呼んだということか。
だから先輩からすれば俺は相当うざくて邪魔な人間だということになるが、責めてきたことはなかったんだよなと。
「だからってすぐに松葉先輩の気持ちを受け入れられるわけじゃないけどね」
「本人にそう言われたんですか?」
「いや、勝手に想像しているだけかな。でも、ちょっと露骨だからさ、流石の僕でも分かるっていうか」
俺は聞いているから確かに分かるがな。
でももし、あのとき聞けていなかったらいまでもまだ揶揄するためだけに、可愛い対象として見るためだけにいるものだと考えていたかもしれない。
いつだって俺も想像でしか分からない側になる可能性もあったわけだが、そんな違う世界の話をしても意味はないからやめておこう。
「告白すらできなかったのは悔しいかな、だけど他の人と違ってたくさんチャンスを貰えたんだから感謝しかないけど」
「すみません、その度に由姫乃から来てと頼まれまして」
「君が悪いわけじゃないよ」
そう言ってくれているけどやっぱり違うだろうよ。
俺だって気になる異性がいてさ、その子と遊びに行けることになったのに知らないその子と仲がいい野郎がいたら間違いなく帰った後とかに文句を言っていただろうから。
その点、先輩はちゃんと面と向かって言えていたわけなんだから悪くはないと思うがな……。
「いいんだ、今度崇君に付き合ってもらうから」
「はい、付き合いますよ」
「あと、また四人で遊びに行こう、今度は最後まで楽しくね」
うっ、それは大丈夫なのだろうか?
あ、でも、大丈夫か、寧ろ好きな人間を違う異性と近づけさせるようなことは流石の松葉先輩だってするわけないから。
「分かりました、今度行きましょう」
「うん、よろしくね――っと、そろそろ寝ようか」
「はい、おやすみなさい」
そこからは朝まで寝て、朝になったら長戸家だったことを思い出してなんか面白くてひとりで笑った。
「おはよ~」
「おはようございます」
「んー……崇くんがいるぅ」
「そりゃいますよ、泊まっていたんですから」
コンビニになにしに行ったのか聞いたらどうやらお菓子を買ってきたみたいだった。
それを実はふたりで食べたみたいだな。
呼んでくれてもいいと思うが、まああのとき俺達は客間で甘々な感じを出していたから空気を読むかと考えて言わないでおいた。
「英士くんは?」
「まだ寝ていますよ、起こしてあげてください」
「あ、でも……いいのかな? また大きな声でまったくっとか言われないかな?」
「大丈夫ですよ」
俺は逆に珍しく起きてこない由姫乃を起こすことに。
どうやら松葉先輩が何度も挑戦してくれたみたいだが、どうしても起きないから諦めて下りてきたらしい。
こんなことは滅多にないから少し新鮮だった――って、俺でも起きているのに起きていないとか死んでいるんじゃないかって不安になってくる。
「由姫乃ー、入るぞー」
ああ、やっぱり眠っているとそう見えなくもないなと。
「由姫乃、起きろ」
「ん……たかし……?」
「おう、もう朝だ」
彼女は体を起こしてから目を擦っていた。
これまたベタな展開にはならず、あくまで普通な感じで「おはよ」と。
「おはよう」
「キス、したい」
「分かった、じゃあ目を閉じていてくれ」
昨日は俺が渋ったせいでああなったからちゃんとしてやらなければならない。
で、未経験なりに頑張ってしてみた結果、満足気な感じで笑ってくれて一安心。
「ありがとう」
「おう」
「朝ご飯を作るわっ、あなたも手伝ってくれる?」
「おう、手伝うよ」
彼女の頭を撫でてから部屋を出る。
朝からなにやっているんだと思う自分と、なんか幸せだななんて思う自分がいたのだった。
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