第四八話 紐付け
私は飛び起きた。
一人で過ごすには広すぎる、ホテルのスイートルームのような部屋。寝室側にある窓からは、遮光カーテンを突破して、無理やりにでも日が入ってこようとしている。
私は髪をわし掴みにして、その後頬を触ってみた。ちゃんと感覚がある。夢の中で白かった髪はピンクラベンダーに染まっていて、たぶん伸びてきていて根本は黒いはずだ。今ちょうど一本だけ白髪を見つけたが、気にしないことにする。
指の先には、赤と黒のネイルカラーがたしかに塗られていた。誰かをまねして塗ったものだ。少し伸びて、二ミリくらい自分の爪の色が見えている。
――――祈祷かなえ……
私は頭の中で、その名を
どういうわけか、あれが私だという確信がある。私は
ぼんやりとした頭でも不思議と受け入れらる反面、吐き気がしてきた。この心に溜まる
私は落ち着きを取り戻すために室内を歩き回ってみた。一度和登君と話をしたい。昨夜の話の続きって、きっとこれに関することだ。
とにかく着替えよう。今日は何にしようか……。
グレーのチュニックに目が留まった。胸の下が絞られた先はAラインに広がっていて、リボンがあしらわれている。これにしよう。下は、とりあえずジーンズを履く。
私が靴下を履いていると、コンコン、とノックが聞こえた。
「はい」
よろけながら返事をする。
「里佳さん、おはようございます」
外から和登君の声がした。その声を聞いて、ここは夢の中ではないのだと安心する。
私はなんとか身なりを整え、入り口のドアを開いた。
「おはよう。ねえ、和登君ちょっと聞いて!」
「な、なんでしょう」
私の勢いに押されたのか、和登君は一歩下がった。
「私、祈祷かなえって人みたいなの。それで和登君の言う通り、ちょっとのあいだ、本当に知らない世界に行ってたみたい」
私は伝えたいことをひとしきり言いきる。和登君は廊下にある私の洗濯物を回収すると、
「どうやって知ったんですか?」
と尋ねてきた。
「夢で見たの」
「夢で?」
「そう、夢」
和登君はあまりピンときていない感じだった。
当たり前だ。私も、言っていてまだ自分でよく分からずにいる。でもあれが直近の正確な記憶だということは、根拠がなくてもはっきりと言える。なんとなく分かるのだ。
「私が住んでた家って、どこにあるのかな」
私はどうでもいいことが気になってきた。
「ああ、それなら」
洗濯物の入った袋を持った和登君が言う。
「最近はこの屋敷の近くで暮らしていたそうですよ」
――――――――----‐‐
私は歯を磨き、顔を洗って髪を整えて、今は和登君と一緒に裏口にいる。お腹が空いてきたし、実際にさっきお腹が情けなく鳴ったが、朝食の前に元いた場所を見に行くことにした。外は雲一つない快晴だ。
「これ、どうぞ」
「これは……!」
和登君が私にサンドウィッチを渡してきた。ハムとレタスとチーズが挟まったものと、ふわふわの玉子のものと、もう一つはおそらくツナマヨだ。
「ありがとう。本当に和登君って神様」
「こんな神様、いたらおかしいでしょう」
私は思わず笑えてきた。
「あはは、たしかにね」
和登君は髪をわしゃわしゃして、居心地が悪そうにしている。私は和登君と並んで歩くのが好きだったけど、和登君はどうだろうか。ふと、そんなことが気になった。もちろん聞くほどの勇気は持ち合わせていない。
裏庭から飛び石を歩いていって、飛び石が終わるとY字に分かれた小道が現れる。昨日どちらへ行くか悩んだ地点だ。和登君はそこを左にそれる。
「私、こっちは昨日行ってないんだよね」
私は和登君に続いた。残るサンドウィッチはツナマヨのやつだけになっていた。
「こっちに一人で来ていたら、驚いていたかもしれませんね」
和登君は意味の分からないことを言っている。
私はふと夢のことを思い出して、和登君に聞いてみることにした。
「……ねえ、和登君。私って、
和登君は歩みを止めずに答えてくれた。
「そうです。先生は、少なくとも日本では一番強い力だろうとおっしゃっていました」
「日本で一番強い?」
私は思わずのけぞる。
「はい。願いを叶えられるっていう力は、世界で他に例がないので」
「世界で例がない……」
私ははっとした。
しかし私の家族は、一般的な力しかもっていなかった。近所の人たちだって、いたって普通だった。
私のお母さんは、受胎のために卵巣を取り換えている。その母は死んでしまったし、お父さんや家族は、私が……。
それに、家族は私を病院に連れていかなかった。出生登録もされていない。だからそれをどこで手に入れたのか、卵細胞に含まれた
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