序章
第零話 風にいざなわれて
『速報です。先日から行方不明となっている女性について、新たな情報が入りました』
薄暗い部屋で男二人が話している。
「かわいそうにね。辛い人生から逃げ出したといったところか」
片方の眼球を金色に光らせた一人が言った。それを聞いたもう一人は、さも興味なさげに答える。
「そうですね。それでは――――」
答えた男がそっと目を閉じると、その男の周囲に二筋の緩やかな風が起こった。わずかに勢いを増していくそれらは、男を優しく包み、周りを旋回するように吹いている。風に触れた髪が左右に揺れ動き、身にまとっている服は波立つ。
「実行します」
風をまとう男はそう言うと、右腕を前に差し出した。一陣の風が腕を伝って指の先まで到達していく。
次の瞬間、男を覆う風がふと
風の男の表情はわずかに曇った。
だが、すぐさま頷き返すと再び目を閉じる。
右の腕によりいっそうの力を込めるや否や、今度は周囲に強風が吹き荒れた。男の髪が逆立ち、服は風に耐えようとばたばた音を立てる。近くに置かれた一枚の紙が風にふれ、巻き込まれていく。
しばらくすると風はすっかり止み、巻き込まれていた紙がゆらゆらと床を目指していった。
『――――情報提供はウェブからも可能です。皆様のご協』
「まったく、相変わらず魅力的な力だ」
金の瞳の男はラジオを切りながらそう言うと、不気味な笑みを浮かべたのだった。
これは、普通の女子大生が関わる二つの話の序章である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます