序章

第零話  風にいざなわれて

『速報です。先日から行方不明となっている女性について、新たな情報が入りました』


 薄暗い部屋で男二人が話している。


「かわいそうにね。辛い人生から逃げ出したといったところか」

 片方の眼球を金色に光らせた一人が言った。それを聞いたもう一人は、さも興味なさげに答える。

「そうですね。それでは――――」

 答えた男がそっと目を閉じると、その男の周囲に二筋の緩やかな風が起こった。わずかに勢いを増していくそれらは、男を優しく包み、周りを旋回するように吹いている。風に触れた髪が左右に揺れ動き、身にまとっている服は波立つ。


「実行します」

 風をまとう男はそう言うと、右腕を前に差し出した。一陣の風が腕を伝って指の先まで到達していく。

 

 次の瞬間、男を覆う風がふといだ。予想外の事態に当事者の男の目が見開かれる。一連の様子を見ていた金色の瞳をもつ男はわずかに眉を寄せたが、風の男に向かって小さくうなずいた。

 風の男の表情はわずかに曇った。

 だが、すぐさま頷き返すと再び目を閉じる。


 右の腕によりいっそうの力を込めるや否や、今度は周囲に強風が吹き荒れた。男の髪が逆立ち、服は風に耐えようとばたばた音を立てる。近くに置かれた一枚の紙が風にふれ、巻き込まれていく。


 しばらくすると風はすっかり止み、巻き込まれていた紙がゆらゆらと床を目指していった。

『――――情報提供はウェブからも可能です。皆様のご協』

「まったく、相変わらず魅力的な力だ」

 金の瞳の男はラジオを切りながらそう言うと、不気味な笑みを浮かべたのだった。



  これは、普通の女子大生が関わる二つの話の序章である。


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