公子、約束する

 再び国境を越える。王国旗がひるがえるサルミエント領の上空を通りすぎ、王都へと戻るころには夜になっていた。

 目立たないように、王都の少し手前でラフィの背からおりた。


「ここからは、歩いて帰ろう」


 文鳥姿のラフィを肩に乗せ、春の夜の静かな草原を、みんなで王都に向けて歩いた。


「不思議な気持ち。人生の重要な旅を、今、終えたのね」


 ナディアが見上げた空は澄んでいて、無数の星が輝いていた。


「短い旅だったが、その中で俺は勇者になった」


 レオはじっと自分の手のひらを見つめていた。何となく、彼の戦いはこれからも続いていくんだと思った。その戦いと、俺のゆく道は、きっと交わったり交わらなかったりするんだと思う。


「公子の活躍をこの目で見たのです。おしゃべりは苦手ですが、口下手なりに、ヴァレリーに土産話をしてやろうと思います」


 カティアは誇らしげで、嬉しそうだった。


 

 ふいに、俺の前に半透明の板が現れた。<システム>だ。


《 悪魔の侵攻から、世界を救いました。システムの最終目標を達成しました 》


 やり遂げた満足感に、寂しい予感が混ざり込む。

 <システム>の最終目標を達成した。それはつまり……


《 お別れです 》


 そうだな。<システム>、エヴァはどうなるんだ?


《 生まれ変わります。またどこかで、お会いしましょう 》


 そうか、世話になったな。……待っているから、俺の近くに生まれ変わってくれ。また会おう。


《 ……システムが役目を終えました。アンインストールが開始されます 》


 俺の身体から、光があふれだしていた。

 去っていく光を追いかけて空を見上げる。藍色の夜空で、天に還った<システム>の光は、星と混ざりあうようにしていつまでも輝いていた。



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