公子、最後の試練に挑む
翌朝、街を出ると、ラフィに龍の姿に戻ってもらった。
「頼めるか?」
「ピッ!」
俺たちを背に乗せて、ラフィは空を飛んだ。
「うそ、うそ、うそ……。ナニコレ、速い!」
高速で流れていく景色に、ナディアは素直にはしゃいでいた。背に乗った俺たちを吹き飛ばさないようにする結界の維持は、すぐにラフィが覚えて自分でやってくれた。賢い子だ。
行きに俺たちが身体強化をして走っていたときも、常識外れの速度だったのだけれど、龍はそれよりも速かった。
あっという間に、目の前に闇に覆われた聖都が見えてきた。
「ラフィ、大聖堂の前の庭におりられる?」
聖都の住人が上空の俺たちに気づきだしていたが、騒ぎが広がるより、俺たちが目的地に到着する方が早かった。
聖堂の前に降り立つ。俺たちの周りに、教会関係者や聖騎士たちが集まってきた。
「<聖なる開花>」
俺はまず、教会の敷地を、<聖なる開花>の領域で埋め尽くした。
周囲の変化に、敵は驚いて立ち止まり、辺りを見回した。
「静まれ! 闇に惑わされるな。おのれの行いを省みよ!!」
声を拡大して<天声>を放つ。
これで、聖騎士の過半数が戦意を喪失した。
「<聖鎖結界>!」
残りの敵は拘束する。
「準備完了だ。増援がきたら、防衛を頼む。奥の元凶を閉じてくる」
仲間に入り口を防御してもらって、俺は聖堂の扉をくぐった。
礼拝堂の中には誰もいなかった。奥に置かれた守護神像が破壊され、代わりに、黒い次元の切れ目が浮かび上がっていた。
敵は、この亀裂の先にいる異界の悪魔たち。
悪魔は、この世界の
この世界の守護神は、浄化によって闇を消し去り、悪魔の干渉を絶とうとした。だが、その試みは失敗する。
聖女は誓約に耐えきれなくなった。人間はもともと闇を抱え、闇を生みだす生き物だから。
闇は初めからこの世界にあったものだ。否定して、異界の悪魔に使わせてはならなかった。
「悪魔に奪われた闇を取り戻し、世界の中に受け入れなおす。それが、<システム>の導き出した攻略法だ」
俺は両手で次元の切れ目に触れた。
「<生命の輪>」
世界からエネルギーをもらって、この世の闇から異界の干渉を分離する。
理屈としてはシンプルだ。
ただし……、
「ぐっ……」
両腕から、俺の中に闇が流れこんでくる。
人間の醜い心。
子どもの俺を囲む家庭教師たちの、見栄と保身に走った思惑。そんなのは序の口だった。
ラファエラ王女が実父から受けた仕打ちを知ると、ラフィを絶対に大事に育ててやろうという気になった。
でも、それもまだ甘い方。
世界は、どうしようもない闇であふれていた。
その1つ1つは、許してはいけないことだし、変えていくべきことばかりだ。でも、世界そのものを否定はしない。
それぞれの闇から、悪魔の干渉をはがしとり、代わりに、少しの希望と暖かさを届ける。
気の遠くなりそうな修練。俺の意識を支えるように、
《 セリム、私も、ともに…… 》
もともと2人から始まった運命の改変だ。最後まで一緒にやりぬこう。
<システム>による高速演算の補助を受けて加速した俺は、悪魔の干渉の付着した闇を、次々と元の形に戻していった。
「異界のものは異界に返してやる」
引きはがした悪魔の干渉は、異界に送り返してやった。
次元の裂け目が閉じていく。
悪魔たちがどんな誘惑をしても、もう効果はない。醜悪な心も、びっくりするほど崇高な心も、どちらも人間のものなんだ。
………………
…………
……
そして、亀裂は消え去った。
聖都をおおっていた闇が、薄くなっていく。
消えたんじゃない。世界に、散っていっただけだ。
悪魔が生み出した魔人たちは、悪魔による制御を失い、霧となって消えるものも、新たな魔物として命をつなぐものもいるだろう。
世界が浄化されたわけではない。
今も、いたるところに悪い奴がいる。
それを見て、正義を志す者がいて、中には、聖人を目指す者も出てくるだろう。
聖堂から出ると、仲間が待っていた。
「どうだった?」
恐る恐るたずねるナディアに、ニッと笑いかけた。
「やれることはやった」
そう言うと、皆の表情も明るくなった。
「それじゃ、急いでここを去らないとな」
聖都の人たちは、何がなんだか分からないまま、薄くなる闇の気配を不思議そうに感じていた。
このままここにいると騒ぎになる。外国で大暴れしたなんて知られたら、いろいろと大変だ。
俺たちは大急ぎでラフィの背に乗り、大空へと飛び立った。
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