公子、ダメな気持ちを理解する
春休み最終日、ベルクマン領北の辺境で、俺は大量発生した魔物と対峙していた。
身体に炎をまとった虎の魔物、火ネズミなど、敵は皆、火属性を帯びていた。
「ルヴィエ領から、わざわざこっちに戻ってきたのは、コイツらの相手をするのに、俺が一番向いていたからだ」
前世の記憶にもあった、王国全土での魔物の大量発生。
被害が大きかったのは、ルヴィエ領のある西部だが、東部のベルクマン領でも、大量の魔物が出現していた。
1周目のときの魔物退治は、正直、俺にとってボーナスゲームだった。俺が倒しやすい魔物が集中して出たので、大活躍できた。
逆に言うと、俺が活躍しなかったら、公爵領でも被害が拡大する恐れがあった。
「相性抜群なのも困りものだな。フリーズ!」
目に見える範囲にいた魔物を、全て凍らせた。
《 交戦状態の魔物を殺しました 経験値が下がります 経験値が-100されました 》
《 魔物を殺しました 経験値が下がります 経験値が-1000されました 》
《 交戦状態の魔物を殺しました 経験値が下がります 経験値が-100されました 》
……………
………
…
ふふふ……くっくっく……ハーハッハッハ!!
ここ1カ月で溜めた経験値が、吹っ飛んでいくぞ!
……まずいな。
これ、妙に解放感があって、テンションが上がる。
学園でダイエット中の女生徒が、やけ食いした話を楽しそうに語っていた気持ちが分かった。いや、これ、分かっちゃいけない気持ちだ。
《 現在のレベル:85 現在の経験値:250/8600 》
ひとまず数を減らしたので、参戦している家臣たちも動きやすくなったはずだ。
「改良ベルクマン結界・守護!」
周囲の騎士たちに結界をかけてやる。
実はこれ、<聖守護結界>の応用だ。
<システム>に付与された能力のうち、適性のない<治癒スキル>はほとんど理解できず、聖属性もさっぱりだった。だが、<聖鎖結界>と<聖守護結界>は結界魔法に聖属性を組み込んだもので、結界部分の解析はできてしまったのだ。
<聖鎖結界>は消費MPが少ない<スキル>だと思っていたが、微量の聖属性魔力を結界魔法に織り込んで、非常に効率よく組み立てられていた。それは、人間の持っている魔法技術のはるか先をいくものだった。
少し離れた先で、父公爵が大型の魔物と戦っているのが見えた。かなり強い個体らしく、父はしぶとく少しずつダメージを与えていたが、彼を支援しようとする周囲の騎士たちの方が、危ない状態だった。
「改良ベルクマン結界・鎖!」
魔物の動きを鎖結界で止めてやる。身動きできなくなった敵は、サンドバックのように打ちのめされて倒された。
しかし、ホッとする間もなく、魔物を倒した父はぐるりと向きを変えると、怒りの形相で俺に迫りよってきた。
「セ~リ~ム~っ! 貴様、魔物を動けなくしたら、戦いが面白くなくなるだろう。余計なことをするな!!」
理不尽な理由で怒鳴られた。まあ、父が戦闘狂なのには、もう慣れっこなんだけど。
「それと、今使った結界は、理論を文章にまとめておけ。ベルクマン結界の研究を続けて、後世に残すのも我々の義務だ」
父はすぐに気持ちを切り替えて、貴族らしいことを言うと、次の敵を探しに去っていった。
「父の性格が純粋な戦闘狂なのか、そう演じている貴族なのか、未だに分からないんだよなぁ……」
ぼやくと隣でヴァレリーが苦笑いしていた。
その後も、魔物の数が少なければ騎士たちが効率よく狩るようにサポートし、敵が増えたら大規模魔法で数を減らしていった。
「うん。前世より早く終わりそうだ。怪我人も少ないし、何とかなったな」
《 現在のレベル:83 現在の経験値:8050/8400 》
レベルも何とか、80台でキープできた。
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