王女、人形とおしゃべりする
ラファエラ王女のデスクの上は、いつの間にか木彫りの人形に占拠されていた。
5歳から早々にたぐいまれな戦闘能力を見せ始めた王女は、すぐに可愛らしいリボンやぬいぐるみを取り上げられて、武闘派に育てられた。そんな王女は大きくなって、奇妙な顔の工芸品にハマった。
並べられた木彫り人形たちの中央に置かれた小さな人形を、遠征に連れていくかで、さっきから王女は悩んでいた。
王国中で、魔物の大量発生が起こっていた。
東部はすぐに、セリム公子の活躍で魔物を平らげたと伝わってきた。
「お前の送り主は、見た目に反して強いな」
王女は人形の頬を指先でちょんとつついた。
公爵家の嫡子が弱いわけがないのだが、王家の者たちは、彼を
治癒魔法が使える者は、温厚で従順な性格になりやすい。特に平民に優しい公子はこのタイプだと思われていた。
「送り主、舐められているぞ。そのくせ、私との婚約を断って……」
国王は公子の取り込みの失敗を、ルヴィエ家の謀略だと考えていた。彼は、地方貴族に後れを取ったと、王女や側近を責めた。だから、側近たちは王女に、もっと公子の気を引けと言ってきた。それは、戦闘にばかり特化して教育されてきた王女にとって、手に余る要求だった。
「まったく。迷惑してるんだからな」
周囲の無理難題に、王女はセリム公子を嫌いになりそうだった。しかし、実際に彼を目にすると、そんな気持ちは吹っ飛ぶのだ。
むしろ、公子を見ると気持ちが安らいだ。彼のくれた木彫りの人形も。民間信仰の厄除けのお守りだが、本当に効果があるのかというくらい、手元におくと気持ちを和らげた。
「やはり、一緒に行こう」
王女は人形をハンカチに包んで、ウエストポーチの底に入れた。
彼女はこれから、南西部の王国直轄領へ救援に向かう。
魔物の発生の後、東部はベルクマン家がおさえ、北西部ではルヴィエ家が活躍していると報告があった。だが、南西部の地方貴族と直轄領からは、魔物の侵攻に耐えきれないと、悲鳴のような知らせが入っていた。
考え事を終えた王女は、木彫りの人形を入れたポーチを身に着けた。
その時、足音をたてて、騎士が1人、王女の部屋に駆けこんできた。
「大変です! サルミエント家が反乱を起こしました!!」
王女の遠征の行先が変わった。
彼女は
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