公子、プレゼントをもらう

 王国の東の<浄化>が済んだところで、一度、王都に戻った。少し学園にも顔を出す。

 カフェテリアで、ナディアに会った。


「今日は女性から男性に、プレゼントを渡す日なのよ」


 カフェテリアの席に向かい合って座ると、笑顔のナディアが言った。

 知っている。昨日、側近のリーゼロッテに予習させられたから。

 女性が意中の男性に、プレゼントを渡して告白する日。

 恋人や配偶者、婚約者から贈り物をもらった場合は、男性が女性を思いきり褒めるというルールもあった。

 俺とナディアは恋仲で、俺がどうしてもナディアと結婚したかったから、王太子との婚約を蹴ったという設定になっている。その証明になるように、たまに人前で、仲の良いところを見せないといけないらしい。


「では、これを」


 ナディアから、箱に入ったチョコレートを貰った。


「ありがとう」


 えーっと、昨日リーゼロッテに覚え込まされたお礼のセリフは、


「君からのプレゼントは嬉しいよ。でも、私の欲しいものは他にあるんだ。君自身だよ。君と結婚して、君と一緒にいることが、私にとって幸せに満ちた人生を送れる唯一の方法なんだ」


 背後で見物していた女子生徒から悲鳴があがる。


「……棒読みのセリフで、女子の心を動かすとは、さすが、我らが公子ですわ。顔だけの大根役者が世から消えてなくならない理由を、ばっちり証明していますわよ!!」


 リーゼロッテが失礼なことを言いながら、うずくまって震えている。これで合ってるんだよな?

 目の前のナディアは微笑んでいた。


「あら、しっかり予習してきたのね。それじゃあ、追加でこれも」


 そう言って、ナディアは宝石のついたブローチを出してきた。

 貴族らしい贈り物だけど、高いものだよな。何か、悪いなぁ。えーっと、こういう時は、


「ありがとう。でも、私にとっては、この宝石より君の方がキラキラしているよ。君がいると、まぶしくて周りのものが見えなくなるくらいだ」


 リーゼロッテの痙攣が止まらない。これって、笑いをこらえてるんだろうか? 周囲の女子生徒の人だかりは、厚みを増している。そんなに面白いかなぁ。


「……何でしょう。私、全財産をプレゼントに変えて、このセリムにしゃべらせ続けたい衝動が起きていますわ」

「やるなら私も協力金を出すわよ、ナディア」


 ナディアとパメラの会話に、周囲の女子生徒が頷いていた。

 これは、良い商売を見つけたんだろうか……。


《 複数の女性を騙しました 経験値が下がります 経験値が-500されました 》

《 現在のレベル:77 現在の経験値:4800/7800 》


 <システム>は、気にくわなかったようだ。


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