公子、老婆と再会する

「アマンダ、久しぶりだな」

「アンタ、学校はどうしたんだい?」

「どうしてもやらなきゃならない用事が出来てな。学園を休んで戻ってきた」


 王都の教会を王国騎士団が調べたら、王国内の他の教会でも闇の魔力が集まっている可能性が出てきた。それで、俺はまず、自分の領地の教会を調べに戻ってきていた。

 ベルクマン公爵領の本拠地にある教会の地下にも、闇の温床は存在した。

 3日かけて<浄化>して、今日終わったところだった。


「用事に1週間くらいかかる予定で来ていたから、時間ができた。アマンダに、王都土産みやげだ」


 俺は買っておいた木彫りの人形を、アマンダに渡した。


「……何で王都みたいな大都会に行っといて、土産が木彫りの人形になるのか分からないけど、一応、ありがとうよ。それじゃ、さっさと出て行きな。儂は忙しいんじゃ」


 久しぶりに会ったというのに、アマンダはすぐに俺を家から追い出そうとした。


「アマンダは、隠居しているんだから、暇じゃないのか?」

「アンタが教会を潰したからね。薬師を再開したのさ」

「薬師…? 教会が潰れて、病人が診られなくなったからか?」


 何だかんだ、教会が病院の役割をしていたからなぁ。


「教会に金を払って診てもらおうって奴は、もともとこの辺にはいなかったよ。逆に、教会に所属しない儂は、薬師の商売を妨害されていたんだよ。年寄りが営業妨害までされて、仕事を続けるのはキツイからね。でも、邪魔する奴がいなくなったから、また働くことにしたよ」


 アマンダはちょっと嬉しそうだった。

 そういえば、家の中には以前見かけなかった大きな薬箱や調薬の道具が置かれていた。


「アマンダが生き生きしているなら、それが一番だ。薬で治療しにくい患者がいるなら、数日手伝うぞ?」

「そうかい。ならこき使ってやるよ」


 3日ほど、アマンダを手伝って領都の病人を診た。

 アマンダ以外の領民は、俺を見るとひれ伏して、やたらとかしこまるようになっていた。

 俺の身分を知ってというより、<浄化>で聖属性を使い続けた影響みたいだ。

 アマンダだけが、昔と変わらずでホッとした。彼女がふてぶてしい性格で良かった。




 ベルクマン領を出て、王都に戻る途中の王国直轄領の教会でも、<浄化>が必要だった。ただ、そこは1日で済んだ。

 王都ほどの闇の温床は、他になさそうだった。

 悪魔たちは教会を拠点に、闇魔力の集積地点を作っていた。その力のもとは、人口の多い街が排出する負の感情の渦だ。一方で、人の少ない田舎では、あまり闇の力を集められないようだった。

 闇属性の広域感知魔法を覚えたカティアの力で、闇の堆積地を見つけては<浄化>していった。


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