公子、夜会に参加する

 秋の祝祭が始まった。

 初日の夜に、王宮で一番豪華な夜会が開かれる。


 宮殿の大ホールで、王都に来た父と一緒に、国王陛下に挨拶あいさつに向かった。となりには、ベルクマン公爵の養子になったレオもいる。

 レオは公爵家の者となって日が浅い。パーティーでの作法には不安が残る。今日は、横について俺がフォローしないといけない。


 国王陛下の前に立った。国王は、まだ30代前半の若々しいイケメンだ。しかし、黒髪をオールバックにし、鋭い目つきでこちらを見つめる姿には、迫力があった。


「その者が、公爵が最近養子に迎えたというレオか」

「はい。貴族としての作法はまだまだですが、今日は寛大に見ていただきたく思います」


 父が答えると、国王は「よい」という仕草をして、レオの方を向いた。


「このような大きな夜会は初めてだそうだな。案内の者をつけよう」


 国王がそう言うと、豪華なドレスを着た姫が前に進み出た。


「私の2番目の娘、エミリアだ。13歳、ちょうど良い組み合わせであろう」


 その言葉に、父が目つきを鋭くした。


「私が見出した才能を取り上げるおつもりで?」

「まだそこまでは言わぬ。だが、エミリアには、いずれ大公の位を与えようと思う。その夫になれば、バラ色の人生と言えような」

「……その大公の領地を魔物の領域から切り拓くのは、誰にやらせるおつもりなのやら……」


 父と国王が、バチバチと音が出そうな勢いでにらみ合う。

 お祭り初日のパーティーで、何やってるんだよ。


「まあ、将来の話は、また別の機会にすればよい。今日はただ、不慣れな若者の案内を、娘にさせようという親切心だ。エミリア、レオ殿をしっかりフォローしてさしあげろ」

「任せてくださいませ」


 レオが、エミリア姫と彼女に仕える美女たちに囲まれて、連れ去られそうになる。1人で行かせて、何かあったら大変だ。


「それなら、私も一緒に……」


 急いでついて行こうとしたが、反対側から腕を引っ張られた。


「セリム公子、たまには私とも仲良くしてもらおう。一緒にダンスはどうだ?」


 ラファエラ王女だった。貴方ダンスとか喜んで踊るキャラじゃないでしょうに。


「セリム様! 明後日の学園生とのダンスは、相手をくじ引きで選ぶことにされたそうですわね。今日踊っていただけるなら、私と約束してくださった分は、希望者に譲りますわ」


 ドゥランテ宮中伯令嬢も、ここぞとばかりに言い募る。

 すると、周りで見ていた貴族女性たちが、俺に群がってきた。

 レオを助けに行けない。


 その後、俺は次々と相手をかえて、女性たちに付き合わされる羽目になった。




 初日のパーティーを終えて、俺はうのていで帰宅した。

 一息つきながら、レオに今日のパーティーのことを聞いた。


「エミリア王女とはどうだった? 何かトラブルなど起きていないか?」

「ああ、心配しなくても大丈夫だぞ。王女は親切だった」


 レオと俺は、義理とはいえ兄弟になったので、タメ口でよくなった。誕生日でいうと、レオの方が兄になるらしいのだが、そこは公爵家の者たちが嫌がって、レオの書類上の誕生日を、俺より後に書き換えたそうだ。一応、俺が義理兄である。


「そうか。……もしかして、エミリア王女を好きになったりとかは……」

「するわけがないだろう。相手はまだ13歳だぞ?」


 どうやら、13歳の王女は、まだ子どもに見えたらしい。


「パーティー会場で、セリムが令嬢たちと踊りだすと、王女の視線がお前に釘付けになっていたから、あまり話してもいないんだけどな。俺は一応、セリムの兄弟ってことになっているから、お前のことをたくさん質問されたよ」


 ……エミリア王女が乙女な子どもで、助かったのかもしれない。

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