公子、秋の遠足に行く1
秋の祝祭が終わった。朝晩とずいぶん冷えるようになってきた。
学園の冬休み前の最後の大きなイベントは、魔物狩りの実習である。
いつもの対抗戦と異なり、生徒全員参加で行われる。
場所は、王国直轄領の真ん中にある山岳地帯。国の中央部だが、険しい山のせいで人が暮らしにくく、どうしても魔物が増えてしまう地域だ。定期的に魔物を駆除しないと、山から人里に魔物が下りてきてしまう。その魔物を狩る手伝いを、王都の学園生にさせようというわけだ。
学園の授業扱いで、同行するのは、いつもの精鋭揃いのチームメンバーと異なる。今回は、ナディアたちと別行動だ。さらに、
「王太子が、ぜひ、レオ様と親しくなりたいそうです。1日お貸し願います」
レオを王女のところに取られた。
結果、俺は同学年で領地から一緒に来た15名と行くことになった。
空は快晴。紅葉がきれいだ。
ハイキング気分で山を登る。
生徒を全員参加させるため、行くのは山の中腹までの、危険の少ないエリアだけだ。
魔物をどれだけ討伐したか結果が出るので、張り切る者もいるが、俺のところはのんびりしていた。側近たちは、毎日人助けに出歩く俺に感化されたのか、性格が丸くなって、武勇での成果をガツガツ求めなくなった。
「おっしゃー! ロック鳥8匹目っ」
ギルベルトだけは、相変わらずテンションを上げて、雑魚狩りに夢中だ。
「おーい、あまり離れすぎるなよ」
俺は、後ろの者がついてこられるように、ゆっくりと進んでいた。
実は前世では、この魔物狩り実習中に、事件が起きている。
いるはずのない、ドラゴンが下りてくるのだ。
ドラゴンといっても、以前に会ったリヴァイアサンほどすごい怪物ではない。生まれたての個体で、レッサードラゴンだ。それでも、勇者レオがラファエラ王太子と協力して、やっと倒せたというくらいに強かった。
レオを王太子に貸せと言われたとき、今世でも、2人でドラゴン退治をするのだろうと思った。勇者不在で王女のところにドラゴンが来たら危険だ。俺はあっさりとレオの貸し出しを認めた。
このドラゴン事件、前世の俺は、2人の活躍を後で聞かされただけだった。すぐに2人が対応して、生徒はみんな無事だった。被害はなく、2人が名声と、希少なドラゴン素材を手にしたというだけの出来事だ。だから、多分、悪魔の暗躍するような問題ではなく、偶然に、強いモンスターと遭遇したんだと思う。
俺たちベルクマン派の登山コースは、ドラゴンの出現場所から外れている。後でレオにドラゴンの話を聞けばいいだけだろう。
そう思っていた。
山から危険を知らせる信号弾が上がった。王女のいる場所と、俺の現在地の中間あたり。あの辺にいるのは、ナディアたちだ。
「まさか、ドラゴンの出現地点がズレたのか!?」
まずい。勇者レオが全力で倒したドラゴンだ。急襲されたら、ナディアたちが危ない。
「救援信号だ。俺が行く。ギルベルト、他の者たちを守って、少し下にあった平地で待機していろ」
「はい!」
「皆、安全確認を怠るなよ。行ってくる」
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