公子、モテまくる

 研修旅行から戻って、1カ月が経った。

 レベル上げは、必要経験値が増えてなかなか厳しい。

 王都では、治療活動も目立たないようにやっているので、あまり進まなかった。


「セリム公子、少しお話、いいでしょうか?」


 学園の昼休み、ジェルソミナ・ドゥランテ宮中伯令嬢に呼び止められた。

 彼女はラファエラ王太子の側近で、俺と王女とのパイプ役を頼んでいた令嬢だ。だが、現在の俺は、ルヴィエ侯爵家のナディアたちと仲良くなっていて、王女とは疎遠だ。そんな状況で、ドゥランテ宮中伯令嬢に声を掛けられて、ちょっと身構えた。


「招待状はすでに送りましたが、王家の主催で、学園の生徒を呼んだパーティーが開かれることになりましたの。ご存知でしょうか?」

「もちろん、知っていますよ。秋の祝祭の中日でしたね」


 秋の王都には、毎年恒例の大きなお祭りがある。

 祭りは5日ほど続き、街にはたくさんの屋台や大道芸が集まって、歩いているだけで楽しめるものだ。

 そして、貴族向けには、王宮で連日連夜パーティーが開かれる。その中で、今年は王太子が学園に通っていることもあり、第1魔法学園の生徒を集めた会も催されることになっていた。


「そのパーティーですけど、学園の皆様に社交界のあり方を経験していただくため、ダンスパーティー形式になっていますの。それでね……」


 ドゥランテ宮中伯令嬢が後ろをチラリと見る。なぜか、彼女の後ろに女子が行列を作っていた。


「パーティーで、セリム公子と踊りたいという女子生徒が、王家の関係者だけでこれだけいますの! できるだけ多くの娘と踊っていただきたいのですが、もう、私では収拾がつけられなくて……」


 はい? あれ、何か政治的な話でもされるのかと思っていたけど。

 そうか。ドゥランテ宮中伯が俺と王家のパイプ役っていうのは、みんな知っていることだ。だから、彼女のところに、俺のダンスパートナーになりたいという依頼が殺到したのか。


「どうやら、迷惑をかけてしまったようだな、ジェルソミナ嬢」

「いえ、いえ。この程度のこと、迷惑だなんて。ただ、私が決めてしまえることではないので、ここからは、差し支えなければ、公子に判断していただきたいのです」


 そりゃ、そうだろうね。


「分かった。ヴァレリー、皆の名前を控えておいてくれ」

「かしこまりました」


 ヴァレリーが並んでいる女子の顔を確認していく。彼は学園の生徒を全員覚えているので、顔を見ればOKみたいだ。

 確認が済むのを待っていると、ドゥランテ令嬢がチラチラと俺の方をうかがっていた。


「……それでね、あの、公子のダンスのお相手、私も候補に入れておいてください!」

「へ? いや、ジェルソミナ嬢となら、もちろん構わないが」


 あまり使ってないけど、王女とのパイプ役だしなぁ。


「そうですか! あら、皆さん、ごめんあそばせ。私だけ先に決まってしまって。ほほほ。では、セリム公子、失礼いたしますわ」


 後ろに並ぶ女子たちに勝ち誇ったマウントをとって、ドゥランテ令嬢は去って行った。



「いろいろ、すっげぇなぁ……」


 ギルベルトがアホみたいに口をあけて呟いていた。



 さて、困ったな。

 ダンスパーティーの時間を考えると、全員と踊るのは無理だ。

 禍根の残らないようにしなきゃいけない。


 うちの配下と相談しても、リーゼロッテがまた面白がるだけだろうしなぁ。


 俺はルヴィエ家のサロンに行くことにした。万能やり手のナディアに対応を考えてもらうのが確実だろう。

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