公子、悪者をやっつける

 リヴァイアサンに協力し始めて4日。

 ナディアと龍はおしゃべりを続けていて、ずっと楽しそうだった。

 俺は<海水浴>を使いっぱなしだが、この<スキル>はMPを消費せず、負担が全くない。結果、特に苦労することなく、リヴィアン島の問題が解決に向かっていた。


 だが、闇の呪いを仕掛けた黒幕が、この島でまだのさばっていた。


 俺たちのいる広間には、リヴァイアサンが作った魔法の隠し通路の他に、人間の作った出入り口が1つあった。その奥から、ふいに、複数の足音が聞こえてきた。

 誰かがこちらへ向かってくる気配だ。

 ここに来て、俺たち以外の人間に会うのは初めてだ。

 リヴァイアサンは嫌そうな表情。味方ではないな。


「隠れよう」


 俺とナディアは、龍の作った通路に隠れた。

 通路から中の様子をうかがう。1人の娘を先頭に、十数名の大人たちが、龍の前に現れた。


「神龍様、今日こそは、何かお話をしていただけないでしょうか」


 神龍。この島の者にとって、リヴァイアサンは神なのか。

 話をしたがっているということは、あの娘が不正した巫女だろう。


「ふん。お前らのようなつまらない者と、話すことなどないわい。ばーか、ばーか」

「偉大なる神龍様、どうか、我々をお導きください」


 会話がかみ合っていない。リヴァイアサンの声は、彼が認めた者にしか聞こえないのだったな。


「リヴァイアサンも、闇魔法の呪いはもう消えたのだから、あの中の誰かに、声を聞かせればいいんじゃないかしら」

「そうだな。あの者たちが、よっぽど嫌いなんだろう……」


 俺は、<神眼>で偽巫女たちを視てみた。ハッとする。中の1人が、闇の魔力の塊だった。


「魔人……!」


 とっさに、俺は隠し通路から飛び出し、魔人に向かって<聖鎖結界>を放っていた。

 ここは外国だ。見つけた魔人に今対処しておかないと、次にまた近づけるとは限らない。


「ぐわあぁぁぁぁっ!!!!!」


 聖なる鎖に拘束されて、魔人が悲鳴を上げる。

 魔人は必死に抵抗しているようだが、鎖はびくともしなかった。


 以前に、魔人化したサティ伯爵と戦った時と大違いだ。

 聖属性は希少な特殊属性で、闇に対しては圧倒的に強い。本で調べた伝説には、数千体の悪魔を一瞬で祓う聖女の話もあった。ただし、聖属性魔法では、普通の生物を害することはできない。

 ジャンケンみたいなものだな。聖属性は闇属性に強く、闇は普通の生物に強い。普通の生物や魔物は、聖属性の影響を受けない。

 <システム>で聖属性を使えるようになった俺は、魔人に対して優位に立った。

 <聖鎖結界>は、魔人相手に最強だ。MP消費も低い。継続ダメージがあるから、時間をかければ、どんな悪魔にも勝てそうだ。


「市長!」「何者だ!?」「学園の制服? 王国民か!?」


 周囲の人々が、突然出てきた俺を警戒する。


「まさか、王国の者がリヴァイアサン様に何かして、お話できない状態に!?」


 巫女もどきが勝手なことを言うと、その場の全員が俺をにらみつけた。


「曲者だ! 誰か!!」

「衛兵と魔術師を連れて来い!」


 数名が部屋から出て行くと、すぐに何人もの兵士を連れて戻って来た。


「狼藉者を捕らえよ!」

「<聖鎖結界>」

「ぐあぁっ……!」


 人間相手に<聖鎖結界>を放ったが、それで拘束できたのは、巫女もどきと周囲の数名だけだった。他の兵士たちには、全く効果がない。

 <聖鎖結界>が効くのは、闇属性に関わった者だけか。

 仕方がないので、他の者たちは通常の結界で止める。


「くっ……。結界を破れ! 何でもいいから魔法を撃ちこむんだ!」


 リヴィアンの魔術師が、魔法で攻撃してくる。

 耐えられるが、数が多い。こちらから攻撃して、全員を殺さずに制圧するのは無理だ。


「まいったな。戦力が足りない」


 <聖属性スキル>で、魔人相手には強くなったけど、こうなると、普通の人間と戦う方が厄介だ。一度仕切りなおして、リヴァイアサンの隠し通路に逃げ込むかなぁ。


「あら、どうして困っているの? 戦力なら、こちらが圧倒的じゃないの」


 頭を抱える俺の前に、隠れるのをやめたナディアが出てきた。


「何せこちらには、リヴァイアサンとその巫女がいるのですわよ!」


 大勢の敵を前に、彼女は堂々と声を張り上げた。


「静まりなさい! 皆、攻撃を止めるのです!!」


 ナディアはリヴァイアサンの隣に立った。リヴァイアサンが彼女の右手に口付けると、その手にクリスタルの剣が現れた。

 剣はリヴァイアサンと同じ、あらゆる属性の魔力を帯びて、虹色に輝いていた。


「私こそがリヴァイアサンの正当な巫女。神龍を信じる者なら、偽りの巫女に従い龍を害するのを止め、武器をおろしなさい!」


 ナディアの言葉に、兵士たちは皆ひれ伏した。

 従わないのは、俺の<聖鎖結界>で拘束されている奴らだけ。彼らは俺たちをにらみつけるが、抵抗することはできなかった。


「娘よ、中央の男、あれだけは今すぐ殺しておけ」


 リヴァイアサンが魔人を指して言うと、ナディアはクリスタルの剣で魔人を切り捨てた。その威力はすさまじく、魔人は一撃で消滅した。


「市長……」

「どうして? 死体も残らないなんて……」


「黒い霧になって消えたのは、闇の魔力に侵された証だ。その市長とやらが暗躍して、リヴァイアサンに呪いをかけていた」


 俺の説明に、みんな目を丸くしているが、疑ってはいないようだった。


「偽りの巫女が選ばれる前、他の巫女候補だった者たちを集めてください。リヴァイアサンが、正しい巫女を選びなおすそうです」


 ナディアの言葉を受けて、リヴィアンの兵士たちは、拘束された偽巫女たちを連れて、部屋を出て行った。

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