公子、食いしん坊の病人を診る
入学式の1週間前、王都に到着した。
これから通う学園には、寮がない。遠距離から来る学生は、有力貴族かその関係者なので、王都に屋敷を持っていた。
ベルクマン公爵家の王都屋敷は、公爵家の見栄と意地を固めてできたような、やたらと金のかかった大邸宅だった。
俺と一緒に入学する取り巻き連中も、全員、公爵邸から通学する。俺の在学中、屋敷は豪華な学生寮だ。
王都に来て真っ先に、レベル上げの環境を整えた。
引き続き、<治癒スキル>を使って経験値を稼ぐつもりだ。
「この2人に、公子が治療する病人を探させます」
ヴァレリーが、見知らぬ男女2人を俺の前に連れてきた。
男の方は、この公爵邸に長年仕えている者。女は、公爵家と付き合いのある商家から借りてきた者だった。土地勘のある者に、病人を探させる。
「王都での治癒魔法の練習は、夜に行っていただきます。なにぶん、王都教会の影響力が強い上、我々はよそ者になりますので。あまり目立たないようにしましょう」
「そうだな」
夜間だと、昼の学園生活に重ならないから、かえって都合が良い。
「2人とも、よろしく頼む」
そう言って、案内役になった2人を見ると、女の方が、何か言いたそうな顔をしていた。
「……実は、早速、病人を探していて、急いで行かないと間に合わない者たちを、見つけてしまいまして……」
女は言い辛そうだ。人の命がかかっているから、助けたいのだろう。しかし、公爵家の息子に、「急いで病人のところへ行け」なんて、指図する真似はできない。
「構わない。治せない病気もあるが、見るだけは見に行く。どういう症状か分かるか?」
「はい。悪質な業者から、貧民が、汚染された魔物肉を買って、食べてしまったようです」
「食中毒か」
領地で、アマンダと一緒に診たことがある。魔物肉の食中毒は致死率が高い。その時は、アマンダに教えてもらった薬と併用して、やっと治せた。
「薬は飲ませたか?」
「いえ。高価なものですので、とても」
「では、薬も持って行こう」
案内されたのは、王都で貧しい者たちが住む区画だった。一応、家が建ってはいるが、庶民の暮らしとしては、王都より公爵領の方が良いかもしれない。
ひび割れた壁、雨漏りする屋根。……土魔法で修理してやりたくなるなぁ。まあ、今は、病人のためにMPが必要なので、後日だな。
目的の家の中には、7人の若い男女が転がっていた。俺と同い年くらいの奴もいる。
「7人か。ギリギリだったな」
症状を見ると、以前にアマンダと治したのと同じようだった。
先に薬を飲ませてから、<並行操作スキル>を使った。
「暫くこのままだ。暇なら出歩いてきてもいいぞ?」
「とんでもございません。しっかり護衛させていただきます」
王都でも、俺の護衛はカティアだ。彼女は、領地では、俺の剣術の師でもあった。
公爵領での俺は、街を自由に動き回っていた。しかし、王都は、我々にとって外国みたいなものだ。1人歩きは止められた。今はヴァレリーと、案内役の女もついてきている。
「ヴァレリーは、俺にずっと付き添ってたら、学園の授業が大変になるだろう。取り巻きは22人もいるんだ。ローテーションを組んでおけ」
「かしこまりました」
俺の周囲に人を置くのは譲れないみたいだから、無理のないように分担してもらいたい。
昼過ぎに始めた治療は、夜が更ける頃に終わった。途中で、公爵邸から、夕食用のサンドイッチが届いた。ちゃんと、病人用の粥まで持ってきたあたり、屋敷の使用人が優秀で助かる。
病人たちは、治療の途中から、目を覚ましていた。
治療を終えて、粥があるから後で食べるように言ったら、すぐに食べだした。食中毒で倒れていたはずなのに、ものすごい食い意地だった。残り物のサンドイッチまで、ついでに食べられた。この食い意地のせいで、食中毒になってしまったんだろうなぁ。
彼らは同じ孤児院の出身で、最近、皆で事業を始めたそうだ。生活はギリギリだが食べていけて、仲間と一緒にいられるから、悪くないらしい。今回は、安売りの肉につられて、ヘマをしたとか。
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》
《 現在のレベル:33 現在の経験値:2480/3400 》
7人も治したから、獲得経験値がすごい。毎日これくらいできればいいけど、学校が始まるからなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます