公子、新歓パーティーに出る2
王女に
すぐに、ナディア・ルヴィエ侯爵令嬢がやってきた。
「セリム・ベルクマン公子にご挨拶いたします。私はナディア・ルヴィエ、ルヴィエ侯爵家の長女ですわ」
「ルヴィエ侯爵令嬢、これから3年間、よろしくお願いします」
ルヴィエ侯爵家は、この学園に俺のところの22名を超える24名の領地出身者を送り込んでいた。彼女こそ、総合能力では王女より上と考えられる令嬢だ。
前世で悪魔によって王都が陥落した後、最後まで抵抗を続けて、多くの国民を救い、避難民を国外に逃がしていたのがルヴィエ侯爵家だ。その時の、彼女の指揮能力は群を抜いていた。おそらく今回も、彼女は悪魔に対抗するための鍵となる人物だろう。
「セリム公子のお噂は、侯爵領まで届いておりましたわ。貧しい民のための魔道具を開発なさったとか。最近では、治癒魔法まで使って病人を助けていらっしゃるとか」
ルヴィエ侯爵令嬢はひとしきり俺のことを褒めて去って行った。
「……治癒能力はごく最近覚えて、しかも主にお忍びで使っていたんだが、何で知っているんだ?」
侯爵家の情報収集能力は凄いんだぞっていうアピールだろうか。
「これは、華麗な先制パンチを喰らったってことかなぁ」
うっかりぼやいてしまって、周囲の取り巻きたちの顔が「ぐぬぬ…」と歪んだ。俺は派閥のトップになるんだから、口には気を付けないといけないな。
次に、マルク・サルミエント侯爵令息が挨拶に来た。
「セリム・ベルクマン公子にご挨拶します。私はマルク・サルミエント、サルミエント侯爵家の第3子です」
「マルク卿、これから3年間、よろしくお願いします」
マルクは前世の学園生活で、珍しく良好な関係だった人物だ。今回も仲良くしておきたいところだが、何か冷ややかな感じだ。
「公子には、もう少し教会を理解していただきたいものです。改心なさったらお話に来てください」
それだけ言うと、すぐにマルクは去って行った。
あ、そうか。今生で彼と仲良くなるのは無理かも。サルミエント侯爵家は教会と繋がりの深い家だ。
王国での教会トップ、王都教会の大司教はマルクの叔父だ。サルミエント侯爵領は聖王国と領地を接している。現在は王国所属だが、聖王国の影響も強く受けている。治癒魔法を使いながら教会に所属しない俺は、気に入らない存在だろう。
「侯爵家は2家とも鼻持ちならない家ですね」
ギルベルトがキレかけていた。侯爵家の子女相手に「鼻持ちならない」とか言うな。ギルベルトはアホなので、注意して見ておかないといけない。
「我々一同協力し、公爵家が2家より上であると、必ず示してみせましょう」
ブレイン役のはずのヴァレリーまで、ヒートアップしていた。貴族っていうとお上品な感じがするが、武力で領地を維持する集団だ。舐められてたまるかっていう気性の激しい者が多いのだ。これをコントロールするのも、俺の仕事かぁ。
それから暫く、伯爵家や他の貴族の挨拶が続いた。2つの侯爵家以外は、無難な挨拶で済んだ。
「爵位のある家の子女からの挨拶は終わったな。後は、気になる者に声を掛けておしゃべりか。お前たち、自由に動き回って、王都や他領の知り合いを作ってこい」
俺は取り巻きたちに自由行動をとらせた。皆が外と人間関係を作ってくれないと、ボスの俺も困るからね。
俺の傍には、3年生のリーゼロッテ子爵令嬢と数名が残った。彼らは新入生ではないので、今動き回る必要がない。
パーティー会場には勇者である平民の男も来ているはずだが、暗黙の了解で、身分ごとにエリアが分かれてしまっている。今声を掛けに行くと、悪目立ちするだろう。
俺がこの学園で仲良くなりたいというか、必要な時にちゃんと話ができる関係になっておきたいのは、1番が勇者、2番がルヴィエ侯爵令嬢だ。2人とも、この場で気軽に話しかけに行きにくいので、機会を待つとしよう。
特にすることもなく、暇になるかと思ったら、なぜか知らない女子生徒がたくさん集まってきた。話しかけられるのに適当に答えているだけなのに、皆やけに嬉しそうだ。こんなこと、1周目にはなかったんだけど。何でだろう。
「さすがは我らの公子、おモテになりますわ」
リーゼロッテがニコニコしている。彼女のマイペースな感じ、喧嘩っ早い取り巻き連中の中では貴重だなぁ。
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