公子、新歓パーティーに出る1

 王都第1魔法学園。ここに今年、この国の王太子である王女が入学する。

 彼女に気に入られようと、国中の有力貴族が、子女を学園に送り込んでいた。

 俺もその1人。そして、前世では、学園の2年生の終わりに、悪魔にとり憑かれて人生を終えた。



 入学式が終わって、新入生歓迎パーティーの会場に移動した。学園の生徒全員が参加する立食パーティーだ。ダンスなどはなく、ご飯を食べながら挨拶回りして、軽くお喋りをする。

 会場には、ベルクマン領出身の取り巻き22名全員で固まって入った。示威行動だな。そんなことをしているからだろうか、入学式からずっと、やたらと視線を感じた。


「20人以上で固まっているのは良くないな。目立って無意味に視線を集めているようだ」


 小声でぼやくと、近くにいたリーゼロッテ・ベルテ子爵令嬢が微笑んだ。彼女は学園の3年生で、俺の取り巻きをやるために、わざわざ2年前から学園に通って準備をしてくれていた。


「公爵家の集団だからといって、ここまでチラチラ見られはしませんわよ。公子が、最近女生徒の間で人気の小説の中の王子様みたいだから。ほら、今もこちらを見て、向こうの娘が頬を染めているでしょう」


 ホホホと笑いながら言われたが、どう返していいか分からない。お世辞なのか?

 1周目ではこんなことなかったのになぁ。あの頃は公爵家嫡子として舐められないようにイキリたっていたから、今の方が雰囲気がまろやかになったとは思うが。そのせいか?


 などと考えていると、王女が会場に入ってきた。


「王太子が来たな。挨拶あいさつに行こう」


 王女は側近を2人しか連れていなかった。取り巻きを全部入れたら、当然、王女が最大派閥になるのだが、彼女はそういうことに無関心な性格だ。うるさがって、たくさん人を連れ歩くことはしない。俺もそれに合わせて、リーゼロッテとギルベルトだけを連れて挨拶しに向かった。


「ラファエラ王女にご挨拶いたします。セリム・ベルクマン、ベルクマン公爵家の長子です。これから3年間、学友として、よろしくお願いします」


「そうか。ベルクマン卿、よろしく頼む」


 王女はあっさりと挨拶を済ませようとする。彼女は非常に強い魔力を持っていて、その強さで早くから王太子に選ばれていた。圧倒的な強さ。ただ、無口で周囲に無関心。政治的な能力でいえば、そう高くないかもしれない。その辺も含めた総合力では、……別の人物が頭に浮かぶ。彼女にも、後ですぐ会うことになるだろう。


「まあ、ベルクマン公子。お噂に違わず素敵な方ですわね。王女、ご存知です? 最近王都で流行っている物語の登場人物に、公子はよく似ていらっしゃるわ」


 それ、ついさっきリーゼロッテも言っていたような。本当の話だったのか。

 今話しかけてきたのは、王女の側近候補のジェルソミナ・ドゥランテ宮中伯令嬢。ドゥランテ宮中伯は、事前の交渉で、公爵家が王女とのパイプ役を頼んだ家である。王女との会話が続くようにフォローしてくれたんだろう。前世でも、俺に対しては親切だった。ただし、表裏の激しい性格をしているので、要注意な女である。

 ドゥランテ令嬢のフォローでしばらく会話を続けた後、俺は王女のもとを離れて、取り巻き連中のところに戻った。



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