公子、旅立つ

 2カ月後、もうすぐ王都へ行くというところで、最初のクエスト目標であるレベル30以上になった。


《 セリム・ベルクマン 男 15歳 》

《 求道者Lv: 31 次のレベルまでの経験値:410/3200 》

《 MP: 5970 / 8002 治癒スキル熟練: 2511 》


 ここ最近は経験値獲得の効率がだいぶん良くなっていたので、もっと早くレベル30になれるはずだった。だが、途中で父親に連れられて魔物狩りの実戦訓練に行ったせいで苦労した。側近候補の取り巻き連中が先に音を上げて泣き出さなかったら、もっと酷いことになっていただろう。


 レベル30になった時に、色々と変化があった。

 まず1つ目は、<森林浴スキル>を獲得したこと。


《 メッセージ:未読4件 》

《  クエストを達成しました New! 》

《   おめでとうございます。Lv30になりました。レベル上げ(初級)を達成しました。報酬として、森林浴スキルを獲得しました 》


《  森林浴スキルを獲得しました New! 》

《   森林浴スキルで、植物から余剰の生命エネルギーを分けてもらえるようになりました。森林浴スキルで十分な生命エネルギーを受け取ると、食事の必要がなくなります 》


 城の庭で<森林浴>を使ってみたが、小腹が満たされる程度だった。食事の必要がなくなるというのは、深い森の中にいるとき限定だろう。高位貴族として生活していると、むしろ、たくさん食べないといけない場面の方が多くて困っているので、現状の俺には使えないスキルだった。


 次に、新しいクエストが発生した。


《 メインクエストが更新されました New! 》

《  レベル上げ:中級 難易度★★★☆☆ 》

《  求道者のLv50になると、聖属性に開眼します。聖属性は闇属性を打ち消す属性です。レベルを上げましょう 》


 メインクエストは再びレベル上げのようだ。次の目標はレベル50。今のペースだと、3カ月かからずに届くと思う。でも、もうすぐ学園に入学して王都へ行くので、環境が変わる。しばらくは、レベル上げの効率も落ちるだろう。


 それから、もう1つ<スキル>を覚えた。


《  並行操作スキルを獲得しました New! 》

《   並行操作スキルは、免疫操作スキルを最大7名にまで同時に使えるようになるスキルです。その他の条件は免疫操作スキルと同じです 》


 <免疫操作>は、1度かけると患者から10メートル以上離れられなくなるので、患者を1か所に集める必要がある。流行り風邪に大勢がかかったような場面では使えるかな。現状だと、7人にかけるのは、MPが危ないと思うが。



《 スキル 》

《  治癒 》

《   簡易治療…小さな切り傷やすり傷を治す 》

《   体力支援…闘病中の相手に体力の支援をする 》

《   免疫操作…免疫で抵抗可能な病気を治す 》

《   並行操作…免疫操作を7名まで同時にかける 》

《  森林浴…植物から余剰の生命エネルギーを受け取り、空腹を満たす 》


 <スキル>が増えてきた。珍しい能力ばかりだが、使える場面は限定的だ。悪魔に対抗する力を得るためには、もっとレベル上げが必要なんだろうな。

 クエストにもなっているレベル50を目標にしよう。




* * *




 城門前に、豪華な馬車が停まっている。いよいよ、王都に向かう日が来た。

 エントランスで城の者たちから、次々に花を渡される。旅立つ人に、花を1輪だけ贈るというのが、この辺の風習だ。


「坊ちゃん、お元気で。マリは坊ちゃんにお仕えできて幸せ者でした」


 花を差し出しながら、マリが涙声で言う。


「ああ。お前には特に世話になったな」


 俺は幼い時に乳母を亡くしたので、俺を世話するメイドは何人かコロコロ変わってしまった。しかし、ここ数年は、マリが中心となってやってくれていた。


「ありがとう」


 ほほ笑むと、マリは滝のような涙を流しだした。

 周りの使用人たちも、しんみりとして送り出してくれた。


 受け取った花を束ねて門の外に出ると、街の人々も見送りに集まってくれていた。


「アマンダ……」


 見送りの人の中に、アマンダたちを見つけた。彼女からも、花を1輪受け取った。

 アマンダの家の庭先に咲いていたであろう花は、ここに来て待っている間に、少ししおれかけていた。俺はそれに、<体力支援>を使う。花はみるみる元気を取り戻した。

 ヨハンやローラ、街で知り合った子どもたちも来ていた。皆から花を受け取ると、持ちきれない量になった。

 大事なものだ。すぐ枯れてほしくない。

 そう思って再び<スキル>を使うと、花がキラキラと光りだして、その光は皆に向かって降り注いだ。

 <システム>も、俺の出発を祝してくれているようだった。


「ありがとう」


 俺はもう1度、皆の顔を見渡して、馬車へと乗り込んだ。


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