公子、薬師を探す

 数日後、教会からは、「治癒魔法のことは門外不出なので所属しない限り教えない」と、教師の派遣を断られてしまった。

 薬師の方は、見つかった奴がマッドサイエンティスト?とでも言うような、ちょっとおかしいのと、実は教会の回し者で俺を洗脳して教会に入れるのが目的ですみたいな奴だったので、お断りした。良い教師を探すのも大変だ。


「街でも聞いてみようかな」


 病気にかかりやすいのは貴族より平民なので、平民の方が良い薬師を知っているかもしれない。ゲレルナ病で苦労して集会まで開いていたヨハンなら、詳しそうだな。

 そう思って、喫茶店のヨハンのところに向かった。



「薬師? それなら、近くにいるじゃあないか。アマンダ婆さん。もう引退しちゃってるけど」

「何だと!?」

「知らなかったのかい? アマンダさん、老人の1人暮らしにしては、結構良い家に住んでるだろう? 昔は凄腕の薬師だったんだよ」


 灯台下暗しというやつだな。



「アマンダ、薬学を教えてくれ!!!」


 すぐにアマンダの家に向かった。


「何だい、急に。儂はもう薬師は引退しているよ。それに、アンタは儂が治せなかったゾフィのゲレルナ病を治せただろうに」

「俺の<治癒スキル>を無知なまま使うのは危険だ!」

「……ああ、そりゃあ認めるけど。でも、薬学っていうのは、ちょっとやって覚えきれるものじゃないんだよ。何年も、何十年も勉強を続けることになる」

「続ける。だが、俺は王都の学園に行かないといけないから、アマンダに王都までついてきてもらうことになるな」

「年寄りを慣れた街から引き離そうとするんじゃないよ!」

「む……」


 確かに、老人のアマンダを住み慣れた街から引き離すのはこくだ。


「ハァ。面倒事は嫌なんだけどねぇ。アンタのことを知っていながら野放しにするのも、世の中のために悪いのだろうね。いいよ。アンタがこの街にいる間だけは教えてやる」

「本当か!?」


 王都に行くまで後2カ月だが、その間にできるだけ学んでおこう。




* * *




 アマンダと薬学の勉強をするために、午後からの予定を全部空けた。幸い、暗記は得意なので、教えられた症例や薬の知識を覚えるのは早かった。


「アンタのスキルとやらを使うのに、役に立つものから教えていった方がいいんだろうねぇ」

「病気の治療か」


 傷を治すのは身体強化と同じみたいだから、今のところ困らない。


「症例を教えるのにいろんな病人を見た方がいいけど、儂は薬師を引退して長いから、そんなに病人の知り合いはいないね」


 ヨハンに紹介されたゲレルナ病の患者たちの治療も、先日終わらせていた。


「領都全体で探せば、たくさん病人が見つかるだろうけど」

「分かった。こちらで探してみる」


 俺は領主の息子だから、探すのは可能だ。ただ、手伝ってくれる人員がいる。そろそろ、俺の側近候補に働いてもらおう。




 城の広間で、俺は同世代の有望株に囲まれていた。


「先日行われた王都第1魔法学園の入学試験に合格した15名です」


 俺と一緒に王都の学園に入学してくれる合格者は15名だった。一番の側近になるギルベルトとヴァレリーが合格しているので一安心だ。


「50名ほど受験しましたが、半数以上が落ちる不甲斐ない結果となりました。年上で、既に学園に入学している者が7名おりますので、合わせて22名で公子のお世話をさせていただきます」

「ちなみに、他貴族としましては、サルミエント侯爵家が16名、ルヴィエ侯爵家が24名の学園内派閥となります」

「ルヴィエ侯爵家に数で負けるとは、何たる屈辱……!」


 集まった皆が口々に王都の入試の結果を教えてくれる。

 ルヴィエ侯爵家は北西の山岳地帯に領地を持っている。厳しい土地だが珍しい魔物が狩れるので、その素材で収入を得ていた。魔物を殺しても金にならず、農業中心のうちとは正反対だな。狩りの収入に頼るため、強い騎士が多いのがルヴィエ侯爵家だ。


「ルヴィエ家は狩りに熱心な土地柄だ。戦闘重視の学園の試験で合格者が多いのは頷ける。気にするな。お前たちはよく頑張って合格してくれた。これから宜しく頼む」


 俺が褒めると、皆満足そうだった。

 俺が王都に行かなければ、領内の学校で悠々と学生生活を送れていた奴らだ。苦労をかける。


 そういえば、1周目の人生で、俺は公爵家の派閥規模が侯爵と大差ないことを気にして、側近によく当たり散らしていた。そういうところから、人間関係が悪化して、ストレスが増えていた気がする。気をつけないとなぁ。


「さて、早速だが協力してもらいたいことがある」


 俺はヴァレリーの方を向いた。彼は文官向きなのに、俺の補佐をするために頑張って王都の入学試験に合格してくれた逸材だ。


「俺が治癒を使えるようになったのは知っているな」

「はい」

「現在、この治癒能力を優先して鍛えている。それで、練習台が欲しい。領都にいる病人の情報を集めてくれ」

「かしこまりました」


 ヴァレリーの家は優秀な文官を何人も輩出しているメルダース家だ。任せておけば大丈夫だろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る